第175話.防衛と攻撃の融合、クロスボウの量産
エメリアは、クルダン帝国との対立が避けられない状況に、防衛システムの構築を急いでいた。堀の拡張、魔法の壁の強化、そして都市全体を覆う巨大な**『防御魔法陣』**。これらは、敵の攻撃から街を守るための重要な防御策だ。
しかし、エメリアの心には、もう一つの懸念があった。
(防御が完璧だとしても、もしそれが破られたら……。何万もの兵士を相手に、この街の住民だけではとても太刀打ちできない……)
エメリアは、前世の司書として読んだ膨大な知識の中から、一つの武器を思い出した。それは、誰でも簡単に扱え、高い命中率と威力を誇る、クロスボウだった。
執務室にガイウス、ディラン、そしてダクレスを呼び出したエメリアは、一枚の設計図をテーブルに広げた。
「皆さんに相談したいことがあります。この街の防衛は、魔法と物理の両面から万全を期していますが、もしもの時のために、誰でも扱える強力な攻撃武器を準備したいと考えています」
エメリアの言葉に、ディランが口を開いた。
「子爵様、この街の兵士は、皆、訓練を積んでいます。ですが、クルダン帝国の大軍を相手にするには、あまりにも数が足りません。それに、弓の技術を習得するには、長い年月が必要です」
「ええ、その通りです。だからこそ、私はこの武器を量産したいのです。これはクロスボウといって、誰でも簡単に、高い威力の矢を放つことができます」
エメリアは、そう言って、設計図を彼らに見せた。ダクレスは、その精巧な構造に驚きの声を上げた。
「これは……!この仕組みであれば、子供でも、熟練の兵士に劣らぬ威力の矢を放つことができます。しかも、魔法陣を施すことで、さらに威力を高めることも可能でしょう!」
ダクレスの言葉に、ガイウスが続いた。
「子爵様。この街には、多くの職人がいます。彼らに協力を仰げば、大量生産も不可能ではないでしょう。それに、このクロスボウがあれば、戦闘経験のない住民たちも、街の防衛に参加することができます」
エメリアは、ガイウスとダクレスの言葉に、安堵の表情を浮かべた。
「そうなんです。**『防御魔法陣』**で守られている間は、誰も傷つくことなく、敵に大きな損害を与えることができます。これなら、勝算は十分にあります!」
エメリアは、ダクレスにクロスボウの設計図と、量産のための魔法陣の設計図を託した。
「ダクレスさん、このクロスボウの量産を、お願いします!」
「お任せください、子爵様!必ずや、この街の防衛に役立ててみせます!」
ダクレスは、そう言って、意気揚々と工房へと向かっていった。
エメリアの都市は、今、防御だけでなく、攻撃の準備も整え、クルダン帝国との来るべき戦いに備え始めていた。彼女の**『閃き』**は、この街の未来を、そして、そこに住む人々の命を、力強く守り抜こうとしていた。