第176話.クロスボウの完成と、街の防衛意識

エメリアが考案したクロスボウの量産は、ダクレスの指揮のもと、驚くべき速さで進められていた。工房の職人たちは、エメリアが提供した設計図と、魔法陣で強化された道具を使い、次々と精巧なクロスボウを作り上げていった。

「ダクレスさん、本当にすごいわ!こんな短期間で、これほどの数のクロスボウが完成するなんて」

工房を訪れたエメリアは、山積みにされたクロスボウを見て、感嘆の声を上げた。

「これも、子爵様が作ってくださった魔法陣のおかげです。木材の加工も、以前とは比べ物にならないほど楽になりました。それに……」

ダクレスは、そう言って、工房の職人たちに目を向けた。彼らは皆、以前にも増して活気に満ちた表情で作業をしていた。

「このクロスボウが、自分たちの街を守る武器になる。その思いが、皆を突き動かしているのです。子爵様、この街の人々は、もうただ守られるだけの存在ではありません。自分たちの手で、この街を守ろうと、皆が思っているのです」

ダクレスの言葉に、エメリアは胸が熱くなった。

その頃、ディランは、クロスボウの使い方を住民たちに教えていた。訓練場には、老若男女問わず、多くの人々が集まっていた。

「いいか!このクロスボウは、引き金を引くだけで、簡単に矢が放てる。だが、狙いを定める練習は必要だ。的にしっかり集中して、落ち着いて撃て!」

ディランは、そう言って、クロスボウの扱い方を丁寧に指導した。最初は戸惑っていた人々も、次第に的を射抜くことができるようになっていった。

「すごい……!私にもできたわ!」

一人の女性が、的の中心近くを射抜くと、周囲から拍手と歓声が上がった。

「見てください、エメリア子爵様。街の人々の防衛意識が、日に日に高まっています」

ディランは、そう言って、誇らしげにエメリアに報告した。

「ええ、ディランさん。これなら、どんな敵が来ても、この街は負けないわ」

エメリアは、住民たちの姿を見て、改めて街を守るという決意を固めた。

一方で、ルークガイウスが仕掛けた経済的な攪乱工作も、着々と進んでいた。クルダン帝国の平民たちは、密かに流通し始めた、エメリアの街の高品質で安価な商品に、驚きと喜びを感じていた。

「このパンは、クルダン帝国の貴族が売っているものよりも、ずっと安くておいしいぞ!」

「この服は、丈夫なのに、驚くほど安い!おかげで、家族全員分の服が買えたわ!」

クルダン帝国の平民たちの間では、エメリアの街の商品が、瞬く間に広まっていった。このことは、貴族たちの市場を圧迫し、彼らの間で、不満と対立を生み出し始めていた。

エメリアの都市は、今、軍事的、経済的、そして人々の心の面からも、クルダン帝国の脅威に立ち向かうための準備を整えつつあった。