第177話.矢じりの改良と、高まる士気

エメリアが考案したクロスボウの量産は、街の職人たちの手によって急ピッチで進められていた。工房の活気は、そのまま街の人々の防衛意識の高さを示していた。

「ダクレスさん、クロスボウの量産、本当にありがとうございます。これがあれば、街の防衛も安心です」

エメリアが工房を訪れると、ダクレスは誇らしげに胸を張った。

「いえ、これも子爵様のおかげです。それに、さらに改良の余地があると考えておりまして……」

ダクレスは、そう言って、一本の矢をエメリアに見せた。その矢じりには、鋭い返しがついていた。

「これは……!」

エメリアは、その矢じりの構造を見て、驚きの声を上げた。

「この矢じりなら、一度刺さったら、そう簡単には抜くことができません。敵の兵士に大きなダメージを与えることができるでしょう。これも、子爵様が作ってくださった魔法陣のおかげで、より精密な加工が可能になったからです」

ダクレスは、そう言って、エメリアに矢を渡した。その矢は、彼らの街を守るという、強い思いが込められているようだった。

「すごいわ、ダクレスさん……!この改良は、戦いの勝敗を左右する、重要な鍵になるかもしれないわ」

エメリアは、ダクレスの才能と、職人たちの技術の高さに、改めて感銘を受けた。

その頃、ルークが仕掛けた経済的な攪乱工作は、クルダン帝国内で大きな波紋を呼んでいた。辺境の村々から密かに流通し始めた、エメリアの街の高品質で安価な商品は、平民たちの生活を豊かにし、貴族の支配に対する不満を煽っていた。

「この小麦粉は、貴族が売っているものよりも、ずっと白くておいしいぞ!」

「この鉄製の農具は、軽くて丈夫だ!おかげで、畑仕事が楽になった!」

クルダン帝国の平民たちの間では、エメリアの街の商品が、瞬く間に広まっていった。このことは、貴族たちの独占市場を脅かし、彼らの間で、不満と対立を生み出し始めていた。

クルダン帝国の貴族派は、この状況を重く見て、ついに動いた。

「王国の辺境にある、あの小さな街が、我々の市場を脅かしている。これは、我々の権威に対する挑戦だ!」

「あの街を滅ぼし、二度と我々に逆らえないようにするのだ!」

クルダン帝国の貴族派は、エメリアの街を滅ぼすため、ついに軍を動かすことを決意した。

エメリアの都市は、今、軍事的、経済的、そして人々の心の面からも、クルダン帝国の脅威に立ち向かうための準備を整えつつあった。彼女の**『閃き』**と、街の人々の才能が融合し、街は、来るべき戦いに備え、士気を高めていた。