第178話.迫りくる嵐と、確信の時
エメリアの街に、緊張が走っていた。ルークがクルダン帝国内に構築した秘密の流通ルートを通じて、帝国の動きを探っていた抵抗組織から、ついに決定的な情報がもたらされたのだ。
「エメリア子爵様、クルダン帝国が、ついに我々の都市への侵攻準備を始めたとの報告が入りました」
執務室に飛び込んできたガイウスの顔は、かつてないほどに深刻だった。
「やはり……」
エメリアは、冷静に頷いた。彼女の予感は、的中したのだ。
「帝国の貴族たちが、我々の経済的な攪乱に激怒し、武力による制圧を決意したようです。彼らは、我々の街が、新たなミーア鉱の加工技術を持っていると勘違いしている可能性があります」
「勘違い……?」
ガイウスは、首をかしげた。
「ええ。彼らの貴族派は、我々がミーア鉱を使い、木材を鉄のように硬くする技術を持っていると考えているようです。だから、我々の街を破壊し、その技術を奪おうとしているのでしょう」
エメリアの言葉に、ガイウスは驚きを隠せないでいた。
「では、我々の街の防御は、彼らが想像するよりも遥かに強固なものだと……」
「その通りです。彼らは、我々の力を過小評価しています。そして、我々の準備は、完璧です」
エメリアは、そう言って、自信に満ちた笑みを浮かべた。
その頃、街の入り口では、ディランが**『青の騎士団』**を指揮し、警戒を強めていた。エメリアが設置した魔法陣は、クルダン帝国が送り込んできたスパイを、一人残らず捕捉していた。
「この魔法陣は、本当に驚くべき代物だな。帝国の精鋭スパイですら、この街には入れないとは」
ディランは、拘束したスパイたちを前に、感嘆の声を漏らした。彼らは、自分が何故捕まったのか、全く理解できていない様子だった。
エメリアは、国王アルフレッドにも、クルダン帝国が侵攻準備をしているという情報を送った。彼女は、この戦いが、一地方都市と一帝国の戦いではなく、王国全体の運命を左右する戦いになることを理解していた。
「エメリア子爵からの報せ……。クルダン帝国が、あの街に侵攻する準備をしているだと……」
国王アルフレッドは、エメリアからの書状を読み、顔を青ざめさせた。彼の頭の中には、王国の貴族派がクルダン帝国に亡命したという噂がよぎっていた。
エメリアの街は、今、来るべき戦いの時を静かに待っていた。街全体を覆う**『防御魔法陣』**は、すでに稼働を始めており、街の人々は、クロスボウを手に、訓練を続けていた。
エメリアは、窓から見える、平和な街の景色を眺め、静かに呟いた。
「さあ、かかってきなさい、クルダン帝国。この街の力を、思い知らせてあげるわ」
彼女の瞳には、揺るぎない自信と、故郷の街を守るという、強い決意が宿っていた。