第180話.魔法の嵐と、反撃の狼煙
クルダン帝国軍が放った全魔法攻撃は、エメリアが構築した巨大な**『防御魔法陣』**に、何の抵抗もなく吸い込まれていった。その光景を目の当たりにした帝国軍は、一瞬の静寂に包まれた。
「ば、馬鹿な……!なぜだ!?我々の誇る魔道士団の攻撃が、なぜ効かない!?」
将軍ザインは、顔を青ざめさせ、信じられないという表情で叫んだ。
その時、静寂を破るように、空から無数の矢が降り注いだ。それは、弓の射程をはるかに超える距離から放たれた、エメリアが量産させたクロスボウの矢だった。
「ひるむな!矢だ!盾を構えろ!」
ザインの号令が響き渡り、兵士たちは、慌てて盾を構えた。だが、その矢は、彼らが想像するよりも遥かに強力だった。魔法陣で強化された矢は、盾を容易に貫通し、兵士たちの体に突き刺さっていく。
「ぐっ……!この矢、抜けん!」
矢じりにつけられた返しが、兵士たちの体に深く食い込み、彼らは苦痛の声を上げた。
その頃、エメリアの都市の上空では、吸収された魔力が、巨大な魔法陣を描き始めていた。それは、街全体を覆うほどに巨大で、見る者の心を圧倒するほどの美しさと威厳を放っていた。
「あれは……!我々の魔法が、空に……!?」
帝国軍の魔道士たちが、その魔法陣に気づいた瞬間、巨大な魔法陣は帝国軍の方を向きを変え、数え切れないほどの魔法の矢が降り注いだ。それは、帝国軍が放った火球や氷の槍とは違い、純粋な魔力で構成された、エメリアが作り出した新たな魔法だった。
「くっ……!まさか、魔法を吸収して、新たな魔法を作ったのか!?」
ザインは、自らが放った魔法が、数倍の力となって自分たちに降り注いでいることを理解し、絶望の表情を浮かべた。
魔法の矢は、帝国軍の兵士たちを容赦なく襲い、彼らの戦意を奪っていった。エメリアの街は、一人の犠牲者も出すことなく、帝国軍に大きな損害を与えていた。
城壁の上からその光景を見ていたディランは、感嘆の声を上げた。
「子爵様……!これは、もはや戦いではありません。一方的な蹂菃です!」
エメリアは、静かに頷いた。彼女の表情には、勝利の喜びに加え、戦争の悲惨さを知る者としての、複雑な感情が入り混じっていた。
「私の街を、私の大切な人々を傷つけようとした報いです。私たちは、武力ではなく、知恵と技術で、この戦いを終わらせます」
エメリアの言葉に、ディランは深く頷いた。
エメリアの都市は、今、その圧倒的な力を見せつけ、クルダン帝国に反撃の狼煙を上げていた。この戦いは、一地方都市と一帝国の戦いではなく、古い常識と新しい革新との戦いだった。