第186話.レベルアップと新たなスキル、そして秘密の強化
クルダン帝国軍との戦いを経て、エメリアの**『閃き』**はさらなる高みへと達していた。彼女の心の中で、新たな魔法陣の構想が次々と生まれていく。それは、単なる防御や攻撃にとどまらない、都市の根幹を守るための、より高度な技術だった。
「グランツ伯爵様、お顔色が優れません。お疲れですか?」
執務室で設計図を広げていたエメリアに、ガイウスが心配そうに声をかけた。
「ええ、少し考え事をしていただけです。ルディウス将軍の次の手を読もうとしていました」
エメリアは、そう言って、ガイウスに微笑みかけた。彼女の頭の中では、ルディウス将軍が狙うであろう、街の技術の**『核』**を守るための、新たな魔法陣の構想が、ほぼ完成していた。
(この構想を、私一人で実現させるのは難しい。王都のロッシュ先生とベイルさんの力が必要だ……)
エメリアは、すぐに手紙を書き、王都の二人へ急使を送った。
数日後、王都からやってきたロッシュ先生とベイルは、エメリアの執務室に招かれた。
「エメリア、君の手紙には驚かされたよ。バクテリウムを制御する魔法陣を、さらに複雑に改良するだなんて。一体、何があったんだい?」
ロッシュ先生は、そう言って、真剣な表情でエメリアを見つめた。
「クルダン帝国の新たな将軍、ルディウスが、この街の技術の**『核』**を狙っている可能性があります。彼が遠隔から魔法陣に干渉してくることにも備えなければなりません」
エメリアは、そう言って、二人に設計図を見せた。それは、バクテリウムを制御する魔法陣を、幾重にも層状にし、それぞれが異なる役割を持つ、複雑な構造だった。
「な、なんだこれは……!こんな多層的な魔法陣、見たこともないぞ!」
ロッシュ先生は、その設計図の革新的なアイデアに、驚きの声を上げた。その隣で、ベイルは静かに設計図をのぞき込み、その精巧さに感嘆の表情を浮かべていた。
「伯爵様、この構想は素晴らしい。私も王都で数々の魔法陣を見てきましたが、これほどまで緻密に制御を行う魔法陣は前代未聞です。この改良を施せば、外部からの干渉は不可能でしょう」
ベイルの言葉に、エメリアは頷いた。
「ありがとうございます、ベイルさん。そして、この魔法陣の存在そのものを隠すための、隠蔽魔法陣も強化したいのです。ルディウス将軍のような相手は、私たちが何を隠しているのか、探ってくるでしょうから」
エメリアの言葉に、ベイルは真剣な表情で応えた。
「お任せください。私の魔法陣の知識を総動員して、最高の隠蔽魔法陣を作ってみせます。王都のいかなる研究者にも、この魔法陣の存在を気づかせはしません」
こうして、ロッシュ先生とベイルの協力のもと、バクテリウムを制御する魔法陣は、外部からの干渉に耐えうる、強固なシステムへと改良された。さらに、その存在を隠すための隠蔽魔法陣も、ベイルの手によって、完璧に強化された。
その夜、エメリアは、一人静かに自室に戻り、自らの力を振り返っていた。
(ルディウス将軍……。彼は、この街の弱点を探っている。ならば、私も、彼らの弱点を、別の方法で探る必要がある……)
エメリアは、そう呟き、新たなスキル**『遠隔解析(リモートスキャン)』**を覚醒させた。それは、遠く離れた場所にある対象の情報を、詳細に解析できる、驚くべきスキルだった。
エメリアの戦いは、武力と武力ではない、知恵と知恵の戦いへと、その様相をさらに複雑に変化させていく。彼女の都市は、今、物理的な防御だけでなく、技術的な防御も強化し、来るべき戦いに備え始めていた。