第187話.遠隔解析の始動と、ルディウスの素顔

エメリアは、ルディウス将軍という新たな脅威の影を感じていた。彼の目的は、単なる武力による制圧ではない。この街の根幹をなす技術、特にバクテリウムを制御する魔法陣の弱点を探ることだった。

ロッシュ先生ベイルさん、ありがとうございます。これで、私たちの街の技術は、ルディウス将軍の干渉から守られるでしょう」

エメリアは、バクテリウムを制御する魔法陣と、その存在を隠すための隠蔽魔法陣の強化を終え、二人にお礼を言った。

「いやいや、伯爵様。君の構想がなければ、私一人では成し得なかったことだ。君の**『閃き』**は、本当に素晴らしい」

ロッシュ先生は、そう言って、エメリアの才能を称賛した。

「本当に、伯爵様には驚かされてばかりです。王都に戻っても、この研究の続きが気になって仕方がありませんよ」

ベイルもまた、エメリアの才能に魅了されていた。

二人が王都へと戻った後、エメリアは、一人静かに自室に戻り、新たなスキル**『遠隔解析(リモートスキャン)』**を使うことを決意した。

ルディウス将軍……。貴方が何を考えているのか、探らせてもらうわ)

エメリアは、そう呟き、精神を集中させた。彼女の視界に、クルダン帝国の地図が浮かび上がり、その中心にいるであろうルディウス将軍の姿を捉えた。

『遠隔解析(リモートスキャン)』。それは、遠く離れた対象の情報を、詳細に解析できる、驚くべきスキルだった。エメリアの意識は、瞬時にクルダン帝国の帝都へと飛んだ。

彼女が捉えたのは、執務室で大量の書物を読み漁る、ルディウス将軍の姿だった。

(彼は、単なる武人ではない……。これは、経済学、法律、そして、魔法の書物……)

エメリアは、ルディウス将軍の知的好奇心の高さに驚いた。彼は、エメリアの街の発展を、ただの脅威と見なしているのではなく、その根幹にある思想や仕組みを、理解しようとしていたのだ。

「フフフ……。エメリア・フォン・グランツ伯爵。貴女は、武力だけでなく、知恵も使う。だが、貴女が作り上げたこの都市の仕組みは、もろ刃の剣だ。その秘密を、私が必ずや暴いてみせる」

ルディウス将軍は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。彼の言葉は、エメリアの**『遠隔解析(リモートスキャン)』**を通じて、彼女の心に直接響いてきた。

(彼は、私の存在に、薄々気づいている……?いや、まさか……)

エメリアは、ルディウス将軍の鋭い洞察力に、背筋が凍るのを感じた。

「お姉ちゃん!」

その時、ノックと共に、ルークが部屋に入ってきた。エメリアは、慌てて**『遠隔解析(リモートスキャン)』**を解除した。

「どうしたの、ルーク?」

ルディウス将軍から、王国の貴族たちに、秘密の書状が送られていることがわかったんだ。彼は、王都の貴族たちと、手を組もうとしているのかもしれない」

ルークの言葉に、エメリアは静かに頷いた。

(やはり、彼は、武力ではなく、知恵と謀略で、私を陥れようとしている……。ルディウス将軍、貴方との戦いは、ここからが本番よ)

エメリアは、そう呟き、静かに反撃の策を練り始めた。彼女の戦いは、武力と武力ではない、知恵と知恵の戦いへと、その様相をさらに複雑に変化させていく。