第189話:公爵の来訪と、王国の思惑
エメリアは、ルディウス将軍が王都の貴族派と共謀しているという衝撃的な事実を知り、警戒を強めていた。彼女の戦いは、もはやクルダン帝国との軍事衝突だけではなく、王国内の政治的な陰謀との戦いでもあった。
そんな中、エメリアの元に、一通の書状が届いた。それは、王国で最も力を持つ貴族、グランツ公爵からのものだった。
「グランツ伯爵様、グランツ公爵が、この街にいらっしゃるそうです」
ガイウスが、書状を手に、緊張した面持ちで報告した。
「グランツ公爵が……?なぜ、わざわざこの街に……。それに、ガイウスさん、私の爵位の姓と公爵様の姓が同じなのは、どういうことですか?」
エメリアは、国王から「グランツ伯爵」の爵位を授けられた際、その姓の意味を深く考える暇はなかった。
「はい。伯爵様がその爵位を授けられた時、国王陛下が、グランツ公爵家に特別に願い出て、伯爵様にこの姓を名乗ることを許可したそうです。陛下は、伯爵様の功績を、王国の中枢を担うグランツ家の一員にふさわしい、と評価されたのでしょう」
ガイウスの言葉に、エメリアは、国王の深い思惑と、グランツ公爵の存在の大きさを改めて感じた。
数日後、グランツ公爵の一行が、エメリアの都市に到着した。公爵は、予想に反して、少数の護衛を連れているだけで、その姿は、威厳に満ちていながらも、どこか穏やかな雰囲気を纏っていた。
「エメリア・フォン・グランツ伯爵。お初にお目にかかります、グランツ公爵です。私の姓を名乗ることになった、我が家の新たな希望」
公爵は、そう言って、エメリアに深々と頭を下げた。彼の言葉には、単なる挨拶以上の、親しみが込められていた。
「グランツ公爵様。ようこそ、私の街へ」
エメリアは、公爵を丁重に出迎えた。
二人は、執務室で向かい合い、今回のクルダン帝国との戦いについて話し始めた。エメリアは、『防御魔法陣』やクロスボウ、そしてルークが仕掛けた経済的な攪乱工作について、詳細に説明した。
「驚きました……。君は、武力だけでなく、知恵と技術で、帝国を退けたのですね。まさに、王国の新たな希望だ」
公爵は、エメリアの才能に感嘆の声を上げた。しかし、彼の瞳には、それ以上の、何かを探るような光が宿っていた。
「ですが、公爵様。今回の戦いは、終わりではありません。クルダン帝国の若き将軍、ルディウスが、王都の貴族派と共謀し、私を陥れようとしているようです」
エメリアは、そう言って、ルークが収集した情報を公爵に伝えた。
公爵は、エメリアの言葉に、静かに耳を傾けた。そして、深い溜息をついた。
「やはり、彼らは、そのように動きましたか……。エメリア伯爵。君は、我々、貴族が持つ、古い常識と、その権威を、根底から覆す存在だ。だからこそ、彼らは、君を排除しようとする」
公爵の言葉に、エメリアは驚いた。彼は、貴族派の行動を、理解しているようだった。
「では、公爵様は、貴族派の動きを止められないのですか?」
エメリアがそう尋ねると、公爵は首を横に振った。
「彼らの行動は、公的には、王国の秩序を守るためのものだ。武力で止めることはできない。だが……。私は、君の力が必要だ。君の**『閃き』**と、その力が生み出す、新たな時代が、この王国には必要なのだ」
公爵は、そう言って、エメリアに手を差し伸べた。彼の瞳には、王国の未来を憂う、深い思慮が宿っていた。エメリアは、その手を取り、新たな同盟が、ここに結ばれた。
エメリアの戦いは、もはや一地方都市の領主の戦いではない。王国の未来をかけた、壮大な戦いへと、その様相を変化させていく。