第192話.ルディウスの策動と、王都の貴族派
エメリアは、『遠隔解析(リモートスキャン)』でルディウス将軍の軍事作戦を把握し、迎撃準備を進めていた。しかし、彼女が警戒すべきは、軍事的な脅威だけではなかった。ルディウス将軍が仕掛ける政治的な謀略もまた、この街の未来を脅かすものだった。
「伯爵様、ルディウス将軍が、王都の貴族派に送った書状の写しです」
ルークが、王都に潜入させていた情報網から得た書状を、エメリアに手渡した。
「ありがとう、ルーク。これで、彼らが何を企んでいるのか、はっきりとわかるわ」
エメリアは、書状を読み始めた。そこには、エメリアの街の技術が、いかに王国の秩序を乱し、貴族たちの権威を失墜させる危険なものか、詳細に記されていた。そして、その技術を「共有」することで、貴族たちの権益を保証するという、甘い言葉が並んでいた。
「やはり、彼は、私たちを政治的に孤立させようとしているのね。貴族派は、私たちの技術を独占できると信じ込んでいる。ですが、それはルディウス将軍の罠です。彼は、貴族派を利用し、私たちの街を内部から崩壊させようとしているのです」
エメリアは、そう言って、書状を握りしめた。
その頃、王都の貴族派の邸宅では、ルディウス将軍からの書状を手に、貴族たちが歓談していた。
「フフフ……。あのグランツ伯爵も、これで終わりだ。我々の権益を脅かす小娘なぞ、いとも簡単に葬り去ることができるわ」
貴族の一人が、そう言って、高らかに笑った。
「そうだ。クルダン帝国の将軍も、我々と同じ考えのようだ。彼の力と、我々の政治力があれば、エメリアの都市の技術は、我々のものとなる。そうなれば、我々の権威は、盤石となるだろう!」
貴族たちは、ルディウス将軍の甘い言葉に酔いしれ、エメリアの都市を奪う夢を見ていた。
しかし、彼らは知らなかった。ルディウス将軍の真の目的は、エメリアの技術を貴族に分け与えることではない。彼は、王国の貴族たちが持つ腐敗した権力構造を利用し、王国全体を混乱に陥れようとしていたのだ。
「フン……。王国の貴族たちは、本当に愚かだな。あのグランツ伯爵を、自分たちの手で排除しようとするとは……。だが、それも私の計算の内だ。彼らは、自らが破滅に向かっていることも知らずに、踊り続けるがいい」
クルダン帝国の帝都で、ルディウス将軍は、王国の貴族たちの動きを、まるでチェスの駒を動かすかのように操っていた。彼の瞳には、王国の滅亡を望む、冷酷な光が宿っていた。
エメリアは、ルディウス将軍の真意を読み解き、王都の貴族派の動きを警戒しながらも、冷静に迎撃作戦の準備を進めていた。
「ルディウス将軍……。貴方の知略、見事なものです。ですが、私は、貴方のその謀略のすべてを、すでに知っています。貴方の思い通りにはさせません」
エメリアは、そう呟き、静かに反撃の策を練り始めた。彼女の戦いは、軍事的な衝突と、政治的な謀略が複雑に絡み合う、高度な頭脳戦へと、その様相をさらに変化させていく。