第193話.ロッシュ先生の警告と、魔法陣の最終調整
エメリアは、ルディウス将軍が仕掛ける軍事的な飽和攻撃と、政治的な謀略の二つの脅威に対抗するため、準備を着々と進めていた。迎撃のための魔法陣の設置は、ディランの指揮のもと、密かに行われていた。
そんな中、王都に戻ったはずのロッシュ先生から、急使を通じて一通の手紙が届いた。手紙は、彼の切羽詰まった様子を物語るかのように、乱雑な筆跡で書かれていた。
「伯爵様、王都からロッシュ先生の急使です。緊急の手紙だそうです」
ガイウスが、緊張した面持ちで手紙をエメリアに手渡した。
「ありがとう、ガイウスさん」
エメリアは、手紙を読み始めた。
『エメリア、大変だ!ルディウス将軍が、王都の貴族派と共謀し、君の街のバクテリウムを制御する魔法陣の弱点を探っていることがわかったんだ!』
手紙には、ロッシュ先生の研究室に、クルダン帝国から来たと思われるスパイが忍び込んでいたこと、そして、そのスパイが持っていた書物には、バクテリウムを制御する魔法陣の設計図の一部が描かれていたことが記されていた。
「やはり……!彼らは、私たちのバクテリウムの技術を、遠隔から干渉しようと企てていたのね……」
エメリアは、背筋が凍るのを感じた。彼女が最も恐れていたことが、現実に起ころうとしていた。
『幸いにも、私はすぐに気づき、ベイルと共に彼を捕らえることができた。だが、油断は禁物だ。彼らは、一度失敗しても、別の方法で攻撃を仕掛けてくるだろう。君の**『閃き』**を、そしてこの街の未来を、決して諦めてはいけないぞ!』
手紙を読み終えたエメリアは、深く息を吐いた。
「先生、ありがとうございます。すでに、ロッシュ先生とベイルさんが協力して作ってくれた、魔法陣の改良と隠蔽魔法陣の強化を済ませてあります。彼らが、私たちの魔法陣を遠隔から干渉することは不可能でしょう」
エメリアは、そう呟き、ディランを呼び出し、迎撃作戦の最終調整に入った。
「ディランさん、迎撃用の魔法陣の設置は、順調ですか?」
「はい、伯爵様。敵の魔道士団が魔法を放つであろう3つの地点に、**『魔法無効化』**の魔法陣を、完璧に仕掛けました。これで、敵の魔法は、私たちの街に届く前に、すべて無効化されます」
ディランは、そう言って、自信に満ちた表情で報告した。
「街の住民たちの避難誘導と、クロスボウの準備は?」
「お任せください、伯爵様!住民たちは、避難用のシェルターにすべて誘導済みです。クロスボウも、城壁に完璧に配置してあります。あとは、敵が来るのを待つだけです」
ディランは、そう言って、力強く頷いた。
エメリアは、窓から見える、平和な街の景色を眺めた。この平和を、ルディウス将軍の陰謀から守り抜くために、彼女は、戦うことを決意した。
「ルディウス将軍……。貴方の策は、すべて見抜いています。貴方の思い通りにはさせません」
エメリアは、そう呟き、静かに反撃の時を待った。彼女の戦いは、今、最終局面を迎えようとしていた。