第194話.密命と魔法陣の罠、静かに迫る帝国軍

エメリアの街に、不穏な静けさが訪れていた。クルダン帝国軍の動きが、**『遠隔解析(リモートスキャン)』**からも、ルークの情報網からも途絶えたからだ。これは、彼らが大規模な攻撃の直前、情報漏洩を防ぐために意図的に静止していることを意味していた。

執務室で地図を広げていたエメリアは、ガイウスディラン、そしてルークに語りかけた。

「皆、もうすぐです。ルディウス将軍が仕掛ける、3方向からの飽和攻撃が、間もなく始まります」

「伯爵様、敵の動きが全く掴めません。本当に、敵は来るのでしょうか?」

ディランは、そう言って、警戒を強めた。

「ええ。私たちの**『遠隔解析』**と、ルークの情報網が途絶えたのは、彼らの周到な準備の証拠です。ルディウス将軍は、前回の敗北から学び、今度は、情報戦でも私たちを上回ろうとしているのです」

エメリアの言葉に、ルークは悔しそうな表情を浮かべた。

「ごめん、お姉ちゃん……。僕の情報網も、帝国の壁を越えられなかった……」

「いいえ、ルーク。貴方が集めてくれた情報のおかげで、私たちは、彼らの作戦を事前に知ることができました。これは、貴方の功績よ」

エメリアは、ルークの頭を優しく撫でた。

その頃、クルダン帝国軍の陣営では、ルディウス将軍が、三人の部下たちに、最後の密命を授けていた。

「いいか、貴様たち。今回は、前回のザイン将軍の二の舞は許されない。あの街には、我々の魔法を吸収する、強力な魔法陣が存在する。故に、貴様たちは、正面から攻撃してはならない」

ルディウス将軍は、そう言って、3枚の地図を彼らに手渡した。

「貴様たちは、この地図に記された3つの地点から、同時攻撃を仕掛けよ。あの街の**『防御魔法陣』**も、3方向からの飽和攻撃には耐えられまい。もし耐えたとしても、貴様たちが仕掛けた特殊な魔法陣が、その防御を崩してくれるだろう」

将軍の言葉に、部下たちは、不敵な笑みを浮かべた。彼らは、前回の敗北を雪辱するべく、闘志を燃やしていた。

彼らは知らなかった。その3つの地点には、エメリアが仕掛けた**『魔法無効化(マジックキャンセル)』**の魔法陣が、すでに待ち構えていることを。

「フン……。エメリア・フォン・グランツ伯爵。まさか、我々が、君の**『防御魔法陣』**を、魔法で突破しようとしていると、まだ思っているのか?」

ルディウス将軍は、そう言って、冷酷な笑みを浮かべた。彼は、部下たちに授けた密命の中に、ある一つの**『嘘』を仕込んでいた。それは、部下たちが、エメリアの街を攻撃する際に、必ず通るべき『地点』**だった。

ルディウス将軍の真の狙いは、エメリアの街を破壊することではない。彼は、エメリアが仕掛けるであろう**『魔法無効化』**の魔法陣を、逆手に取ろうとしていたのだ。

エメリアは、ルディウス将軍の巧妙な罠に、気づいていなかった。彼女の戦いは、今、予想だにしない展開を迎えようとしていた。