第195話:貴族派の奇襲と、二人の公爵の援軍
クルダン帝国軍の動きが途絶えた数日後、エメリアの街に、不穏な影が忍び寄っていた。それは、帝国の軍勢ではなかった。王都の貴族派が、私兵を率いて、街を急襲してきたのだ。彼らは、ルディウス将軍の甘い言葉に乗り、エメリアの都市の技術を奪うために、密かに準備を進めていたのだ。
「伯爵様!街の南門に、貴族派の私兵が押し寄せています!」
ディランが、血相を変えて執務室に飛び込んできた。
「やはり、ルディウス将軍は、武力だけでなく、政治的な謀略で、私たちを追い詰めようとしているのね……!」
エメリアは、そう言って、拳を強く握りしめた。彼女は、ルディウス将軍が王都の貴族派と共謀していることは知っていたが、これほど早く、彼らが行動を起こすとは予想していなかった。
「すぐに、クロスボウで応戦しなさい!彼らは、正規の兵士ではありません。貴族の私兵ごときに、私たちの街を任せるわけにはいかないわ!」
エメリアは、そう言って、ディランに指示を出した。
しかし、城壁の上から私兵たちを見たディランは、驚きを隠せずにいた。
「くそっ……!貴族の私兵ごときが、これほど多くの魔法具を持っているとは……!」
私兵たちは、それぞれが最新式の魔法具を装備し、城壁に向かって炎や氷の魔法を浴びせていた。それらは、貴族が私財を投じて手に入れた、高価な代物だった。
「慌てるな、ディランさん。彼らの魔法は、私たちの**『防御魔法陣』**には届かないわ」
エメリアは、冷静にディランに語りかけた。彼女の言葉通り、貴族派が放った魔法は、街を覆う**『防御魔法陣』**に触れると同時に、音もなく消滅していった。彼らは、エメリアの街の防御力が、自分たちの想像を遥かに超えていることを知らなかったのだ。
その時、街の北門から、新たな軍勢が押し寄せてきた。それは、グランツ公爵の旗を掲げた、精鋭部隊だった。
「エメリア伯爵!お待たせしました!グランツ公爵家が、援軍に参りました!」
部隊を率いるのは、グランツ公爵の腹心、アルフォンスだった。
「アルフォンス殿!ありがとうございます!ですが、なぜ、このタイミングで……!」
エメリアは、グランツ公爵の援軍に、安堵の表情を浮かべた。
「これは、グランツ公爵様からの密命です。貴族派が、君の街を襲うことを予測し、我々を派遣してくださいました。さあ、共に、貴族派の私兵を蹴散らしましょう!」
アルフォンスは、そう言って、グランツ公爵の精鋭部隊を指揮し、貴族派の私兵たちを圧倒していった。
その頃、街の西門からは、さらに別の軍勢が押し寄せてきた。それは、アードレ公爵の旗を掲げた、部隊だった。
「エメリア!養女の危機に、駆けつけないわけにはいかないだろう!」
部隊を率いるのは、アードレ公爵の腹心、レオンだった。
「レオン殿!アードレ公爵様も……!」
エメリアは、アードレ公爵の援軍に、涙を流しながら感謝した。
「ああ。公爵様は、君の街が、王国の未来を背負っていることを知っている。だからこそ、君を、そしてこの街を守るために、私を派遣してくださったのだ!」
レオンは、そう言って、アードレ公爵の部隊を指揮し、貴族派の私兵たちを、容赦なく蹴散らしていった。
エメリアの街は、ルディウス将軍の巧妙な謀略によって、危機に陥ったかに見えた。しかし、彼女の功績と人柄に惹かれた二人の公爵の援軍によって、その危機は、一瞬にして去っていった。
エメリアの戦いは、もはや一地方都市の領主の戦いではない。王国の未来をかけた、壮大な戦いへと、その様相を変化させていく。