第196話.帝国の再来と、罠の応酬

王都の貴族派による奇襲は、二人の公爵の援軍によって瞬く間に鎮圧された。しかし、エメリアは、この戦いが、ルディウス将軍が仕掛けた罠の一部であることを理解していた。

「伯爵様、貴族派の私兵たちを拘束しました。彼らは、クルダン帝国軍が3方向から攻撃を仕掛けるという情報を流布し、我々を混乱させようと企んでいたようです」

ディランが、報告にやってきた。

「やはり……。ルディウス将軍は、私たちが、彼の作戦を**『遠隔解析』**で知っていることを、見抜いていたのね……。そして、その情報を逆手に取り、貴族派の私兵を囮に使った……」

エメリアは、ルディウス将軍の巧妙な策略に、感嘆とも言える表情を浮かべた。

その時、街の北東の空に、黒い煙が立ち上っているのが見えた。

「伯爵様!あれは……!?」

ガイウスが、窓の外を指さした。

「いよいよです……。ルディウス将軍の、真の攻撃が、今、始まります」

エメリアは、そう言って、静かに立ち上がった。彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。

その頃、クルダン帝国軍の陣営では、ルディウス将軍が、三人の部下たちを前に、冷酷な笑みを浮かべていた。

「フフフ……。あのグランツ伯爵も、まさか、我々が、貴族派の私兵を囮に使ったことには、気づいていまい。彼女は今、貴族派の残党を追い払うのに、手一杯だろう」

部下の一人が、ルディウス将軍に尋ねた。

「将軍、あの街には、我々の魔法を吸収する魔法陣があるはずです。今回の飽和攻撃も、無駄に終わるのではないでしょうか?」

「いや、無駄には終わらない。我々が仕掛けたのは、魔法の飽和攻撃だけではない。今回の飽和攻撃は、**『偽装』**だ」

ルディウス将軍の言葉に、部下たちは、驚きの表情を浮かべた。

「では、真の攻撃とは……?」

「あの街の**『防御魔法陣』は、我々の魔法を吸収し、その魔力で新たな魔法を生成する。我々が仕掛けたのは、その魔力生成の過程で、魔法陣を暴走させるための『毒』**だ」

ルディウス将軍は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。

彼が考案した作戦は、単純な飽和攻撃ではなかった。大量の魔法を放つことで、エメリアの**『防御魔法陣』**に、制御不能なほどの魔力を吸収させ、自滅させるという、極めて巧妙な罠だったのだ。

「フフフ……。エメリア・フォン・グランツ伯爵。君は、自分の**『閃き』**が、もろ刃の剣であることを、今、知ることになる」

ルディウス将軍は、そう言って、高らかに笑った。

エメリアは、ルディウス将軍の真の狙いを、まだ知らない。しかし、彼女の心の中では、不穏な予感が渦巻いていた。彼女の戦いは、今、予想だにしない展開を迎えようとしていた。