第197話.魔力爆発の兆候と、エメリアの**『閃き』**
クルダン帝国軍の飽和攻撃が、いよいよ始まった。3方向から放たれた無数の魔法が、エメリアの街を覆う**『防御魔法陣』**に次々と吸い込まれていく。その光景は、前回と同じだった。
「伯爵様!やはり、前回と同じです!敵の魔法は、私たちの魔法陣にすべて吸収されています!」
城壁の上からその光景を見ていたディランは、安堵の表情を浮かべた。しかし、エメリアの表情は、晴れなかった。彼女の心の中では、不穏な予感が渦巻いていた。
「いいえ、ディランさん……。何かがおかしいわ。魔法陣が、前回の比ではない、膨大な魔力を吸収している。それに、吸収した魔力が、うまく循環していない……」
エメリアは、そう言って、街の地下にある魔法陣の制御室へと急いだ。
制御室には、ルークが待機していた。
「お姉ちゃん!やっぱり来てくれたんだね!魔法陣の魔力制御が、うまくいかないんだ!吸収した魔力が、どんどん溜まっていく!」
ルークは、そう言って、制御盤に表示された魔法陣の魔力ゲージを指さした。魔力ゲージは、危険なレベルまで上昇し、赤く点滅していた。
「くそっ……!これは、ルディウス将軍が仕掛けた罠だ……!彼は、私たちの魔法陣の仕組みを見抜き、自滅させようとしている!」
エメリアは、ルディウス将軍の真の狙いを理解し、歯を食いしばった。
「どうするんだ、お姉ちゃん!?このままじゃ、魔法陣が魔力に耐えきれず、爆発しちゃうよ!」
ルークが、焦った表情で叫んだ。
「大丈夫よ、ルーク。**『閃き』**が、新たな道を示してくれている」
エメリアは、そう言って、精神を集中させた。彼女の頭の中で、魔法陣の構造が、まるで生きているかのように変化していく。
(このままでは、魔法陣は爆発してしまう。ならば……。吸収した魔力を、別の場所に**『転送』**すればいい……!)
エメリアは、そう言って、制御盤に手をかざした。彼女の掌から、光の粒子が放たれ、制御盤に刻まれた魔法陣が、新たな形へと変化していく。
「お姉ちゃん!これは……!吸収した魔力を、空に**『転送』**して、散布する魔法陣!?」
ルークが、エメリアの**『閃き』**が生み出した新たな魔法陣の構造に、驚きの声を上げた。
「ええ。この街を守るために、彼らが放った魔力を、彼らが作った空に還してあげるわ」
エメリアは、そう言って、静かに微笑んだ。
彼女の言葉通り、魔法陣の魔力ゲージは、瞬く間に下降していった。そして、街の上空には、吸収された魔力が、光の粒子となって、夜空に散っていく、幻想的な光景が広がった。
しかし、その光景を、ルディウス将軍は、冷徹な表情で見ていた。
「フン……。やはり、あのグランツ伯爵は、一筋縄ではいかない。だが……。私は、もう一つの**『毒』を仕込んである。君の街のバクテリウムを、制御不能に陥れる『毒』**を……」
ルディウス将軍は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。彼の瞳には、エメリアの**『閃き』**さえも超える、恐るべき企みが宿っていた。