第198話.バクテリウムの変調と、崩壊の予兆
エメリアは、ルディウス将軍が仕掛けた魔力飽和の罠を、『閃き』によって見事に回避した。しかし、彼女の心は晴れなかった。ルディウス将軍の言葉、「もう一つの『毒』」が、彼女の脳裏に焼き付いていたからだ。
「ルーク、街のライフラインの状況は?」
エメリアは、そう言って、ルークに尋ねた。
「うん、お姉ちゃん。今のところ異常はないよ。水道も、動力も、すべて正常に動いている」
ルークは、そう言って、安堵の表情を浮かべた。しかし、その時、制御室の壁に設置された、バクテリウムを制御する魔法陣の監視装置が、けたたましい警告音を鳴らし始めた。
「な、なんだ!?バクテリウムの制御魔法陣に、異常が発生している!」
ルークが、顔を真っ青にして叫んだ。
「ルーク、落ち着いて。魔力制御のどこに異常があるの?」
エメリアは、そう言って、制御盤に駆け寄った。
「わからない……!制御魔法陣は正常に動いているのに、バクテリウムの活性度が、どんどん上昇しているんだ!このままじゃ、バクテリウムが制御不能になって、街中に蔓延してしまう!」
ルークの言葉に、エメリアは背筋が凍るのを感じた。
(まさか……!これが、ルディウス将軍が仕掛けた、もう一つの**『毒』**……!)
エメリアは、そう言って、バクテリウムを制御する魔法陣の設計図を頭の中で展開した。彼女がロッシュ先生とベイルと共に強化したはずの魔法陣に、どこにも弱点はないはずだった。
しかし、その時、彼女の**『閃き』**が、ある一つの可能性を提示した。
(魔法陣そのものに**『毒』を仕掛けたのではない……。彼は、街の外部から、ごく微細な波長の魔力を送り込み、バクテリウムの『性質』**を変化させようとしているのだ……!)
エメリアは、そう言って、ルークに語りかけた。
「ルーク!すぐに、街の地下にあるバクテリウムの培養室の状況を調べて!」
「わかった!」
ルークは、そう言って、培養室の監視装置を起動させた。
監視装置の画面に映し出されたのは、培養槽の中で、通常よりも遥かに巨大化し、赤く光るバクテリウムの姿だった。
「な、なんだこれ……!バクテリウムが、こんなに巨大化しているなんて……!」
ルークが、驚きの声を上げた。
「これが、ルディウス将軍の**『毒』……。彼は、街の防御魔法陣が検知できない、特殊な魔力波長で、バクテリウムの『増殖』**を促していたのね」
エメリアは、そう言って、歯を食いしばった。
「どうするんだ、お姉ちゃん!?このままじゃ、バクテリウムが培養槽から溢れ出して、街が滅んでしまうよ!」
ルークが、焦った表情で叫んだ。
しかし、エメリアの表情は、冷静だった。彼女の瞳には、すでに、ルディウス将軍の策を打ち破る、新たな**『閃き』**が宿っていた。
(ルディウス将軍……。貴方は、私の街の技術を、すべて理解しているつもりでしょう。ですが、私には、まだ貴方が知らない**『最後の切り札』**がある……)
エメリアは、そう呟き、静かに反撃の策を練り始めた。彼女の戦いは、もはや、軍事的な衝突や、政治的な謀略だけではなかった。それは、科学と魔法、そして**『閃き』**がぶつかり合う、高度な頭脳戦へと、その様相をさらに変化させていく。