第199話:ルディウスの誤算と、エメリアの最後の切り札

エメリアは、ルディウス将軍が仕掛けたバクテリウムを増殖させる特殊な魔力波長を、『閃き』によって解析した。彼女は、この状況を打開するための最後の切り札を、すでに用意していた。

「お姉ちゃん、どうするんだ!?このままじゃ、バクテリウムが培養槽を破壊して、街中が汚染されてしまうよ!」

ルークが、焦った表情でエメリアに尋ねた。培養槽の監視装置の魔力ゲージは、危険なレベルを遥かに超えていた。

「大丈夫よ、ルークルディウス将軍は、私たちの技術のすべてを知っているつもりでしょう。ですが、彼は、私たちにも、彼が知らない技術があることを、見落としている」

エメリアは、そう言って、静かに微笑んだ。

「彼が仕掛けた**『毒』は、バクテリウムの増殖を促す特殊な魔力波長。ならば、その増殖したバクテリウム**を、別の形で利用すればいい」

エメリアは、そう言って、制御盤の奥に隠されていた、一つの魔法陣を起動させた。

「な、なんだこれ……!?お姉ちゃん、こんな魔法陣、いつの間に……!?」

ルークは、制御盤に浮かび上がった、見たこともない複雑な魔法陣に、驚きの声を上げた。

「これは、バクテリウムが過剰に増殖した際、そのエネルギーを吸収し、街全体の**『防御魔法陣』を、さらに強化するための魔法陣よ。名付けて……『生命の盾(ライフシールド)』**」

エメリアは、そう言って、静かに魔法陣を起動させた。すると、けたたましく鳴り響いていた警告音が止み、魔力ゲージは、瞬く間に正常値へと戻っていった。そして、街を覆う**『防御魔法陣』**は、より一層、輝きを増していった。

その頃、クルダン帝国軍の陣営では、ルディウス将軍が、エメリアの街の様子を映し出す魔法の鏡を見ていた。

「フン……。やはり、あのグランツ伯爵も、魔力爆発を回避したか……。だが、バクテリウムの制御は、どうにもなるまい。あの街は、今頃、汚染され、内部から崩壊しているはずだ……!」

しかし、彼の予想とは裏腹に、エメリアの街は、平和そのものだった。街を覆う**『防御魔法陣』**は、以前にも増して強固になり、帝国の攻撃を、ことごとく弾き返していた。

「な、なんだと……!?あり得ん……!なぜ、バクテリウムが制御不能に陥らない……!?なぜ、魔法陣が、さらに強固になっている……!?」

ルディウス将軍は、自分の計画が、すべて裏目に出たことに、驚愕と絶望の表情を浮かべた。彼の頭の中では、エメリアの街のバクテリウムが、制御不能になり、街全体が崩壊していく光景が描かれていたはずだった。

ルディウス将軍……。貴方は、私の**『閃き』と、この街の技術を、すべて理解しているつもりでしょう。ですが、私は、貴方の予想を遥かに超える『最後の切り札』**を用意していました」

エメリアの声が、魔法の鏡を通じて、ルディウス将軍の耳に直接届いた。それは、エメリアが遠く離れた場所から、彼の作戦を見抜き、先手を打っていたという、底知れぬ能力の証明だった。

「まさか……!私と同じように、遠く離れた場所から、この作戦を読み解いていたというのか……!?」

ルディウス将軍は、エメリアの底知れぬ能力に、恐怖と敗北を感じた。彼の顔から、すべての血の気が引いていった。

エメリアの戦いは、今、勝利へと向かっていた。彼女は、ルディウス将軍の知略を上回り、王国の未来を、自らの手で切り開こうとしていた。