第200話:終戦と、新たな時代の幕開け
エメリアの街を襲ったクルダン帝国軍は、壊滅的な敗北を喫した。ルディウス将軍が仕掛けた周到な罠は、すべてエメリアの**『閃き』**と、彼女が構築した革新的な魔法技術によって打ち破られた。
街の地下に仕掛けられた**『魔法無効化』**の魔法陣は、帝国の魔道士団が放った魔法をことごとく無効化し、さらに彼らの魔力回路を破壊した。その犠牲となったのは、ルディウス将軍の腹心として作戦を指揮していた3人の部下たちだった。彼らは自らが放った魔法によって、二度と魔法を使えぬ体となり、戦意を完全に喪失した。
そして、ルディウス将軍の最後の切り札であったバクテリウムの増殖という罠も、エメリアが起動させた**『生命の盾』**によって、逆に街の防御力を高める結果となった。
「伯爵様、敵の魔道士団は、ほぼ全滅しました。残った兵士たちも、戦意を喪失し、撤退を始めています」
ディランが、興奮した面持ちで報告にやってきた。
「そう……。私たちの勝利ね」
エメリアは、そう言って、静かに微笑んだ。しかし、彼女の心は、勝利の喜びに満たされているわけではなかった。
「お姉ちゃん、ルディウス将軍は、どうなったんだろう?」
ルークが、不安そうな表情で尋ねた。
エメリアの言葉通り、クルダン帝国軍の陣営では、ルディウス将軍が、静かに撤退の命令を下していた。彼の目の前には、魔力回路を破壊され、膝から崩れ落ちる3人の部下の姿があった。
「将軍、このまま撤退するのですか?まだ、戦えます!」
部下の一人が、そう言って、将軍に食ってかかった。
「馬鹿者……!もう勝負はついたのだ。彼女は、私の知略をすべて上回った。これ以上戦っても、無駄死にが増えるだけだ」
ルディウス将軍は、そう言って、静かに立ち上がった。彼の表情には、悔しさよりも、エメリアという強敵に出会えたことへの、ある種の満足感が浮かんでいた。
「フン……。エメリア・フォン・グランツ伯爵。貴女は、この時代の常識を遥かに超える、恐るべき存在だ。だが、この借りは、いつか必ず返させてもらうぞ……!」
ルディウス将軍は、そう呟き、部下たちを連れて撤退する兵士たちの後を追った。彼の瞳には、敗北を喫しながらも、新たな戦いへの闘志が宿っていた。
数日後、エメリアの街は、再び平和を取り戻した。今回の勝利は、王国の貴族たちにも大きな衝撃を与え、エメリアの名声は、さらに高まった。
「伯爵様、今回の勝利は、王国の歴史に、新たな1ページを刻むことでしょう」
グランツ公爵の腹心、アルフォンスが、そう言って、エメリアに深々と頭を下げた。
「ええ。ですが、これは、私一人の力ではありません。ロッシュ先生、ベイルさん、そして、ガイウス、ディラン、ルーク、皆がいたからこそ、成し得た勝利です」
エメリアは、そう言って、笑顔で皆を見つめた。
この戦いは、エメリアの街の平和を守っただけでなく、王国の停滞した貴族社会に、新たな風を吹き込むきっかけとなった。エメリアの存在は、もはや一地方都市の領主ではなく、王国の未来を背負う、希望の星となっていた。
そして、この戦いの終結は、エメリアの物語の一つの区切りでもあった。彼女は、この勝利を糧に、さらなる高みを目指し、新たな時代を切り開いていくことになる。