旧 芹沢鴨の異世界日記 第2話
「おい、誰かいるか!?」
俺は、大声で叫んだ。だが、返ってくるのは、木々のざわめきと、鳥たちの鳴き声だけだ。
ここは、一体どこなんだ。
俺は、自分の身体を見下ろす。腹の傷は、いつの間にか、すっかり癒えていた。血も止まり、痛みも引いている。
「一体、何がどうなっているんだ…」
俺は、混乱しながら、周囲を見回す。
金色の葉をつけた木々。どこまでも続く、青い空。俺の知らない、異世界の景色。
俺は、夢を見ているのか?
いや、違う。この感覚は、夢じゃない。
俺は、生きている。
あの化け物に、殺されかけた。だが、あの時、俺の頭の中に響いた声。
《スキル作成》
あの声が、俺を救ったのか?
俺は、もう一度、頭の中で、その言葉を唱えてみた。
「スキル…作成…」
すると、俺の身体から、再び、あの力が溢れ出すのを感じた。
「これは…」
それは、温かく、そして、力強い光だった。
俺は、その力を、掌に集中させてみる。
すると、掌に、光の玉が浮かび上がった。
「なんだ、これは…」
俺は、驚きと戸惑いを隠せない。
この力は、一体、何なんだ?
俺は、その光の玉を、掌の中で、握りしめてみた。
すると、光の玉は、一瞬で消滅した。
「はは…なんだ、こりゃ…」
俺は、呆然とした。
こんな力、俺は、今まで見たこともない。
俺は、新撰組局長、芹沢鴨。
剣の道で、生きてきた。剣術こそが、この世で最も強い力だと信じてきた。
だが、この力は、一体…
俺は、歩き始めた。
このまま、ここにいても、何も始まらない。
この異世界で、生きていくには、この世界のことを知る必要がある。
俺は、剣を失った。だが、この身体には、北辰一刀流の技が染み付いている。
そして、この、謎の力。
俺は、この力を使って、この世界を生き抜いてやる。
俺は、森の中を、ひたすら歩いた。
日が沈み、夜空に、見慣れない二つの月が浮かび上がる。
「二つの月…」
俺は、夜空を見上げ、驚愕した。
俺の知っている世界とは、何もかもが違う。
俺は、焚き火を起こし、その日の夜を過ごすことにした。
薪を集め、火を起こす。火の粉が、夜空に舞い上がり、二つの月が、それを照らしている。
「くそっ…」
俺は、悔しさで、歯ぎしりをした。
なぜ、俺だけが、こんな目に遭うんだ。
土方歳三、近藤勇…あの野郎どもに、復讐してやる。
だが、ここは、俺の知っている世界じゃない。
「どうすればいいんだ…」
俺は、途方に暮れた。
その時、
「ニャー…」
俺の背後から、可愛らしい声が聞こえてきた。
俺は、振り返る。
そこには、今まで見たこともない、可愛らしい動物がいた。
猫のような姿をしているが、身体は、白い毛で覆われており、尻尾は、ふさふさしている。
「なんだ、テメェは…」
俺は、警戒しながら、動物に声をかけた。
動物は、俺に怯えることなく、俺の足元に擦り寄ってきた。
「ニャー…」
俺は、その動物を、じっと見つめる。
どこか、親近感が湧く。
「お前…腹が減っているのか?」
俺は、動物に、優しく声をかけた。
動物は、俺の言葉を理解したかのように、俺を見つめ、首を傾げた。
俺は、何も食べ物を持っていなかった。
その時、俺の頭の中に、再び、あの声が響いた。
《スキル作成》
俺は、思わず、その言葉を唱えた。
「スキル…作成…」
すると、俺の掌に、小さな光の玉が浮かび上がった。
俺は、その光の玉を、動物の前に差し出した。
「これを、食えるか?」
動物は、俺の掌から、光の玉を、ペロリと舐めた。
すると、光の玉は、動物の身体の中に、吸い込まれていった。
「ニャー…」
動物は、嬉しそうに、俺に擦り寄ってきた。
俺は、その動物を、優しく撫でてやった。
「お前…俺と一緒に、来るか?」
動物は、俺の言葉を理解したかのように、俺の足元に、チョコンと座った。
俺は、笑った。
「はは…お前、面白い奴だな…」
俺は、その動物を、抱きかかえた。
動物は、俺の腕の中で、気持ちよさそうに、喉を鳴らしている。
俺は、この異世界で、たった一人ぼっちじゃなくなった。
俺は、この動物と一緒に、この世界を、生きていく。
この俺、芹沢鴨が、この異世界で、どう生き抜いていくのか。
物語は、まだ、始まったばかりだ。