旧 芹沢鴨の異世界日記 第3話
焚き火の周りで、俺は抱きかかえた白い獣に話しかけていた。
「お前、名前はなんていうんだ?」
白い獣は、俺の質問に答えるかのように、「ニャー」と可愛らしく鳴いた。
「ニャー…か。お前、猫なんだな」
俺は、白い獣の頭を撫でてやる。獣は、気持ちよさそうに目を細めた。
「よし、お前の名前は、今日から『ユキ』だ。俺がつけた名前だ。気に入らなくても、文句は言うな」
ユキは、俺の言葉を理解したかのように、俺の腕の中で、嬉しそうに喉を鳴らした。
「はは…お前、本当に可愛い奴だな」
俺は、ユキを抱きしめた。
今まで、こんな風に、誰かを可愛がることなんて、なかった。
俺は、芹沢鴨。
凶暴で、粗暴。
人斬りだ。
だが、この異世界に来てから、俺は、少しずつ、変わっているのかもしれない。
「明日からは、この世界のことを、もっと知る必要がある」
俺は、ユキと一緒に、この世界を、生きていく。
この夜、俺は、久々に、安らかな眠りにつくことができた。
翌朝、俺は、ユキを連れて、森の中を歩き始めた。
「ユキ、お前、この辺りのこと、何か知っているか?」
ユキは、「ニャー」と鳴き、俺の足元を、ちょこちょこと歩いていく。まるで、俺を、どこかへ案内しているようだ。
「お前、もしかして…」
俺は、ユキの後を、ついていった。
しばらく歩くと、森が開け、目の前に、大きな川が現れた。
「これは…」
川の水は、信じられないほど、透き通っていた。
俺は、川の水を、手ですくって飲んでみた。
「うまい…」
俺の知っている川の水とは、全く違う。
まるで、天から降ってきた水のように、澄み切っていた。
俺は、川の水を、がぶ飲みした。
この異世界に来てから、初めて、安堵を覚えた。
「ユキ、お前のおかげだ」
俺は、ユキの頭を撫でてやる。ユキは、嬉しそうに、俺の掌に、頭を擦りつけた。
その時、
「助けて!」
遠くから、女性の声が聞こえてきた。
俺は、とっさに、声のする方へ走った。
「ユキ、お前は、ここにいろ」
俺は、ユキにそう言い残し、声のする方へ向かった。
声のする方へ行くと、そこには、一人の女性がいた。
女性は、金色の髪を持ち、青い瞳をしている。まるで、絵画から抜け出てきたような、美しい女性だ。
だが、その女性は、今、二匹の化け物に襲われていた。
一匹は、あの時、俺を襲った狼のような化け物。
もう一匹は、俺の知っている蛇とは全く違う、巨大な蛇だった。
「クソッ!」
俺は、思わず、舌打ちをした。
相手は、二匹。しかも、あの狼のような化け物は、俺が昨日、死闘を繰り広げた、強敵だ。
「助けて…」
女性は、俺に、助けを求めた。
俺は、躊躇した。
俺には、刀がない。
だが、このまま、この女を見殺しにするわけにはいかない。
「仕方ねぇ…」
俺は、腹をくくった。
俺は、北辰一刀流の構えを取る。
「おい、テメェら。その女から、離れろ」
俺は、二匹の化け物に向かって、大声で叫んだ。
化け物たちは、俺の方を振り向く。
狼の化け物は、俺の姿を見て、再び、威嚇するように唸り声をあげた。
「グルルルル…」
「ふん、覚えていやがったか」
俺は、笑った。
「だが、今度は、逃げも隠れもしねぇ」
俺は、狼の化け物に向かって、走り出した。
「北辰一刀流…」
俺は、懐から、あの時、俺の身体から溢れ出した、光の玉を作り出した。
そして、その光の玉を、狼の化け物に向かって、投げつけた。
「グォォォォ!」
狼の化け物は、光の玉に、真っ向からぶつかり、消滅した。
「よし!」
俺は、もう一匹の蛇の化け物に向かって、走り出した。
「今度は、テメェだ!」
だが、蛇の化け物は、俺の目の前から、すーっと消えてしまった。
「なっ…」
俺は、驚愕した。
蛇の化け物は、まるで、幻のように、消えてしまったのだ。
「一体、どういうことだ…」
俺が混乱していると、女性が、俺に駆け寄ってきた。
「あ、ありがとうございます!」
女性は、俺に、深々と頭を下げた。
「お前…大丈夫か?」
俺は、女性に、優しく声をかけた。
「はい、おかげさまで…」
女性は、安堵の表情を浮かべた。
「俺は、芹沢鴨。お前は、誰だ?」
俺は、女性に、自分の名前を名乗った。
女性は、俺の言葉に、少し驚いたような表情を浮かべた。
「私は、リリア。冒険者です」
「冒険者…?」
俺は、聞き慣れない言葉に、首を傾げた。
「はい。魔物を倒して、お金を稼ぐのが、私たちの仕事です」
リリアは、俺に、この世界のことを、色々と教えてくれた。
この世界には、魔物や、魔法、そして、冒険者と呼ばれる者たちがいること。
そして、俺の持っている、この謎の力は、『スキル』と呼ばれるものであること。
「スキル…」
俺は、自分の頭の中に響いた、あの言葉を思い出した。
《スキル作成》…レベル1…
「この力は、もしかして…」
俺は、自分の身体を見つめる。
俺は、新撰組局長、芹沢鴨。
だが、この異世界では、俺は、『スキル』を使う、新たな存在として、生きていくことになるのかもしれない。
俺は、リリアに、尋ねた。
「リリア。俺と、一緒に、行ってくれねぇか?」
俺は、この異世界で、生きる道を見つけた。
この俺、芹沢鴨が、この世界で、最強の剣士になってやる。いや、剣士ではない。この異世界の、最強の、冒険者に、なってやる。