旧 芹沢鴨の異世界日記 第5話
リリアと俺は、森の中をひたすら歩いた。彼女は、俺にこの世界のことを色々と教えてくれた。
「この世界には、様々な種族がいます。人間、エルフ、ドワーフ、獣人…」
「獣人…か。俺のいた世界にも、獣みたいな顔をした奴らはいたがな」
俺は、冗談めかして言ったが、リリアは真剣な表情で俺を見つめた。
「彼らは、人間とは違います。彼らには、獣の力と、人間の知恵が備わっています」
「なるほどな…」
俺は、リリアの言葉に、感心したように頷いた。
「そして、この世界には、魔法というものがあります。火を操ったり、水を操ったり…」
「魔法か…まるで、幻術だな」
俺は、自分の知っている言葉で、魔法を表現した。
「幻術…ですか?そうかもしれませんね。ですが、魔法は、幻術とは違います。実体を持った力です」
リリアは、そう言うと、俺の目の前に、小さな火の玉を作り出した。
「これが、魔法です」
俺は、その火の玉を、じっと見つめた。
「面白い…」
俺は、その火の玉を、掌で握りしめてみた。
「あっ、危ないです!」
リリアは、慌てて俺を止めようとしたが、もう遅かった。
火の玉は、俺の掌の中で、一瞬で消滅した。
「な…なんで…?」
リリアは、驚愕した表情で、俺を見つめた。
「なんだ、この程度か。俺の知っている幻術の方が、よっぽど手強いぜ」
俺は、リリアの言葉に、フッと笑った。
だが、俺は、心の中で、驚いていた。
(この力は…一体、何なんだ…?)
俺の掌には、火の玉があった。だが、俺がそれを握りしめると、それは、まるで最初から存在しなかったかのように消え去った。
「あなた…一体、何者なんですか…?」
リリアは、俺を、警戒するような目で見ていた。
「言っただろう。俺は、芹沢鴨。ただの、流れ者だ」
俺は、リリアの言葉に、再び、そう答えた。
リリアは、俺の言葉に、何も言わなかった。
それから、俺たちは、無言で歩き続けた。
夕方になり、俺たちは、小さな街にたどり着いた。
「ここが、冒険者の街、『エルトニア』です」
リリアは、そう言うと、俺を、街の中へと案内した。
街の中は、活気に満ち溢れていた。
俺の知っている京の街とは、全く違う。
様々な種族が行き交い、見慣れない露店が並んでいる。
「冒険者ギルドは、あそこです」
リリアは、そう言うと、俺を、大きな建物の前へと連れて行った。
「ここが、冒険者ギルド…か」
俺は、その建物を、じっと見つめた。
「冒険者ギルドは、冒険者の登録や、依頼の斡旋を行う場所です。あなたも、ここで、冒険者として登録しましょう」
リリアは、俺を、ギルドの中へと誘った。
ギルドの中は、多くの冒険者たちで賑わっていた。
皆、思い思いの武器を手にし、談笑している。
俺は、その光景を、じっと見つめた。
(ここに、俺の居場所は、あるのだろうか…)
俺は、不安と期待を胸に、リリアの後を、ついていった。
受付には、人間の女性が座っていた。
「リリアさん、おかえりなさい」
女性は、リリアに、笑顔で話しかけた。
「ただいま、メイ。この方が、今日から、私の仲間になった、芹沢鴨さんです」
リリアは、俺を、女性に紹介した。
「はじめまして、芹沢さん。私は、受付嬢のメイです。どうぞ、よろしく」
メイは、俺に、優しく微笑んだ。
「ああ。よろしく頼む」
俺は、メイに、軽く会釈した。
「では、芹沢さん、冒険者登録をしましょう。まず、こちらの紙に、必要事項を記入してください」
メイは、俺に、一枚の紙を差し出した。
「必要事項…?」
俺は、その紙を見て、驚愕した。
そこには、俺の知っている文字とは、全く違う文字が並んでいた。
「な…なんだ、これは…」
俺は、混乱した。
「どうかしましたか?」
メイは、俺の様子を見て、不思議そうな表情を浮かべた。
俺は、リリアに、助けを求めた。
「リリア…この文字は…」
リリアは、俺の言葉に、ハッとした表情を浮かべた。
「そうか…芹沢さんは、この世界の文字が読めないんですね…」
リリアは、そう言うと、俺に代わって、紙に必要事項を記入してくれた。
「大丈夫です。私が、あなたの代わりに、記入しておきます」
俺は、リリアの優しさに、胸が熱くなった。
俺は、この異世界で、一人じゃなかった。
俺には、リリアという、仲間ができた。
俺は、この仲間を、大切にしようと、心に誓った。
俺の、異世界での冒険は、今、まさに、始まろうとしていた。