芹沢鴨の異世界日記 第五話


酒場でアルベルトと別れ、宿に戻る道すがら、俺は一人、夜の街を歩いていた。王都グランベルの夜は、日本のそれとは比べ物にならないほど明るい。石畳の道には等間隔に、魔法の明かりを放つ灯りが設置されている。

「……まるで、昼間みてえなもんだな」

俺は、そう呟いた。日本の夜は、闇が支配する時間だ。だが、この世界では、闇すらも支配しようとしている。

「新撰組……か」

アルベルトに聞かれて、思わず口にしてしまった、俺の過去。

新撰組局長・芹沢鴨。それは、俺がこの世に生を受けた証であり、そして、俺を殺した呪いでもある。

俺は、京の街を守るために、剣を振るった。だが、その力は、いつしか周りの人間を恐れさせ、孤立させる原因となった。

そして、近藤や土方たちは、その力に嫉妬し、俺を暗殺した。

「……ふん」

俺は、鼻で笑った。

もう、過去のことだ。俺は、あの世界で死んだ。そして、この世界で、新たに生を得た。

ならば、俺は、この世界で、俺の剣を、再び振るえばいい。

だが、今度は、過去のような過ちは繰り返さない。

俺は、そう心に誓った。

宿に戻ると、俺はすぐに床に就いた。だが、俺の意識は、すぐに深い眠りに落ちることはなかった。

俺の頭の中で、声が響いている。

《スキル……スキル……》

それは、『スキル作成』の力だ。

俺は、目を閉じ、集中した。

『居合』は、俺の持つ剣術の流派を、この世界の力に変換したものだ。ならば、他にも、俺の持つ剣術の技を、スキルにすることができるのではないか?

俺は、自身の剣術を思い返した。

北辰一刀流には、様々な技がある。袈裟斬り、胴斬り、突き、小手斬り……。

だが、それらは、どれも「居合」ほど、この世界のスキルに変換しやすいものではない気がした。

俺が、そう考えていると、頭の中で再び声が響いた。

《スキル作成……『剣気』を作成しますか?》

「剣気……?」

それは、剣士の持つ、気迫や闘気を力に変換するスキルだ。

俺は、新撰組局長として、多くの修羅場を潜り抜けてきた。その気迫は、誰にも負けない。

ならば、この力こそ、俺の剣術に、新たな可能性を与えてくれるだろう。

「……作成しろ」

俺は、そう念じた。

《スキル作成:『剣気』、完了。》


スキル: 剣気(レベル1) 効果: 精神を集中させることで、一時的に攻撃力と速度が上昇する。

新たなスキルが、俺の心臓に刻み込まれた。

これで、俺はさらに強くなれる。

次の日、俺はアルベルトと共に、新たな依頼を受けに、冒険者ギルドへと向かった。

次の依頼は、『コボルト討伐』。

コボルトとは、犬の顔をした、知能の低い亜人種の魔物だという。集団で行動し、群れで襲いかかってくるため、油断はできない。

俺たちは、ギルドの受付で依頼を受け、コボルトの生息地である『霧の森』へと向かった。

霧の森は、その名の通り、常に濃い霧に覆われている。視界が悪く、どこから敵が現れるか分からない。

「芹沢、気をつけろ。コボルトは、集団で不意打ちを仕掛けてくる」

アルベルトが、真剣な表情で俺に忠告した。

「ああ、分かっている」

俺は、剣を抜き、警戒しながら森の奥へと進んでいく。

その時、霧の中から、何かが飛び出してきた。

「グルルルル……!」

犬の顔をした、小さな人型の魔物。それが、コボルトだ。

「来たぞ!」

アルベルトが叫んだ。だが、コボルトは一匹ではなかった。

二匹、三匹、四匹……。

霧の中から、次々とコボルトが現れる。

そして、俺たちは、コボルトの群れに囲まれてしまった。