芹沢鴨の異世界日記 第九話
宿の一室で、俺は剣を握りしめていた。新しいスキル、『剣術融合』。俺の北辰一刀流と、この世界の剣を一体化させる、まさに俺の剣術の真髄を極めるためのスキルだ。
朝方、俺は目を覚ますとすぐに、その感触を確かめた。手のひらに馴染む剣の重み、柄の感触、刃の冷たさ。すべてが、まるで俺の身体の一部であるかのように感じられた。
「……ふん。悪くない」
俺は、そう呟くと、宿を後にした。今日の目的は、新しいスキルの試運転だ。アルベルトとの約束まで、まだ時間がある。
俺は、王都の郊外にある、冒険者たちが訓練に使う森へと向かった。そこには、弱い魔物が多く生息しており、実戦形式での訓練にはもってこいの場所だった。
森に入ると、すぐにゴブリンの群れに遭遇した。
「グルルル……!」
棍棒を振り回しながら、五匹ほどのゴブリンが俺に向かってきた。
俺は、剣を抜き、構えを取った。
「来い……!」
俺は、まず『剣気』を発動させた。全身に力が漲り、身体が軽くなる。
そして、その勢いのまま、ゴブリンの一匹に、一気に間合いを詰めた。
「『剣術融合』……袈裟斬り!」
俺は、剣を大きく振りかぶった。だが、それは、ただの袈裟斬りではなかった。
剣と俺の身体が一体化したことで、斬撃に、まるで風を纏ったかのような鋭さが加わった。
斬撃は、ゴブリンの首を正確に捉え、一瞬で仕留めた。
「グルッ……」
ゴブリンは、悲鳴を上げる間もなく、地面に崩れ落ちた。
俺は、振り返る間もなく、次のゴブリンに狙いを定めた。
「『剣術融合』……突き!」
俺の剣は、まるで雷光のように、ゴブリンの心臓を貫いた。
その瞬間、俺の頭の中に、光が走った。
《剣術融合のスキルレベルが上昇しました。》
「……ほう」
俺は、驚きと同時に、喜びを感じていた。
このスキルは、使えば使うほど、強くなる。
残りのゴブリンたちが、俺に恐れをなして後ずさりする。
「居合……抜刀斬り!」
俺は、剣を鞘に納め、一瞬で抜き放った。光の斬撃が、残りのゴブリンたちを一掃した。
「……はぁ、はぁ」
俺は、荒い息を吐きながら、剣についた血を払った。
「これなら……」
俺は、確信した。
この力があれば、どんな敵が来ようと、俺は負けない。
俺は、魔石を回収し、訓練を終えた。
ギルドに戻ると、アルベルトが俺を待っていた。
「おい、芹沢! 遅かったな! どこに行っていたんだ?」
アルベルトは、不機嫌そうな顔で俺に言った。
「少し、訓練をしていただけだ」
「訓練? この王都の外でか? 危ないだろうが! 俺を待てばよかったじゃないか!」
アルベルトは、心配そうな顔で俺に言った。その顔には、怒りよりも、安堵の色が濃く出ていた。
俺は、何も言わなかった。
ただ、俺の胸の中には、温かいものが込み上げてきていた。
この男は、俺を、仲間だと思ってくれている。
新撰組局長だった頃、俺は、誰からも、こんな風に心配されたことはなかった。
「……すまない」
俺は、素直に謝った。
アルベルトは、俺の言葉に驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「はは! お前が謝るなんて、明日雪でも降るんじゃないか?」
「……ふん」
俺は、再び鼻で笑った。
だが、その笑みは、決して不機嫌なものではなかった。
「さあ、行くぞ、アルベルト。次の依頼だ」
「おう!」
俺たちは、冒険者ギルドの掲示板を眺めながら、次の依頼を探した。
俺は、この剣を、この仲間と共に、どこまで高めることができるのか。
その答えを、この世界で見つけ出してやる。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません