芹沢鴨の異世界日記 第十話


冒険者ギルドの掲示板には、今日も様々な依頼が張り出されていた。アルベルトは、掲示板を真剣な表情で眺めている。

「どうだ、アルベルト。何か良い依頼はあったか?」

俺が声をかけると、アルベルトは振り返り、一枚の依頼書を指差した。

「これだ、芹沢。『薬草の王』の採取依頼」

「薬草の王……?」

俺は、その依頼書を覗き込んだ。

『薬草の王』とは、非常に希少な薬草で、どんな傷でもたちどころに治すことができると言われている。だが、その薬草は、ダンジョン『嘆きの洞窟』の最深部にしか自生していないらしい。

「嘆きの洞窟……。そこは、危険なんじゃないのか?」

俺がそう言うと、アルベルトは真剣な表情で頷いた。

「ああ。普通のダンジョンじゃない。嘆きの洞窟には、アンデッド系の魔物が大量にいる。ゾンビやスケルトン、それに、最深部には『嘆きの騎士』と呼ばれる強力なアンデッドがいるらしい」

アンデッド……。

ゾンビやスケルトンといった魔物の存在は、アルベルトから聞いている。それは、この世界の、死んだ人間の骸が、魔力によって動き出したものだという。

「……なるほど。それは、面白そうだ」

俺は、不敵な笑みを浮かべた。

俺の剣は、生きた人間や魔物だけを斬るものではない。死んだ骸だろうと、俺の剣が斬れないわけがない。

「おいおい、笑ってる場合か! 嘆きの騎士は、一人や二人じゃ、どうにもならない相手だ。パーティーを組んで、大勢で挑むのが常識だぜ」

アルベルトが、俺の態度を心配しているようだった。

「心配するな、アルベルト。俺の剣は、この程度で錆びつくような、柔なものではない」

俺は、そう言って依頼書を掴み取った。

「決まりだな。嘆きの洞窟へ行くぞ」

アルベルトは、まだ不安そうな表情をしていたが、俺の決意の固さに、何も言えなかった。

俺たちは、冒険者ギルドで依頼を受け、嘆きの洞窟へと向かった。

ダンジョンの入り口は、王都から馬車で二時間ほどの場所にあった。洞窟の入り口は、まるで巨大な怪物の口のようで、禍々しい雰囲気を放っている。

「……おい、芹沢。本当に、二人で行くのか?」

洞窟の入り口に立つと、アルベルトが、最後の確認をするように俺に尋ねてきた。

「ああ。行くぞ」

俺は、そう言って、洞窟の奥へと足を踏み入れた。

洞窟の中は、ひんやりとした空気に満ちており、獣の匂いと、腐敗したような匂いが混ざり合っている。

そして、その奥から、呻き声のようなものが聞こえてきた。

「グルルルル……」

暗闇の中から現れたのは、ボロボロの布を纏った、ゾンビの群れだった。

「来たぞ……!」

アルベルトが構える。俺も剣を抜き、構えを取った。

「『剣気』!」

俺は、すぐに剣気スキルを発動させた。剣が淡い光を放ち、俺の全身に力が漲る。

「居合……抜刀斬り!」

俺は、迫りくるゾンビたちに向かって、一閃を放った。

光の斬撃が、ゾンビたちの身体を切り裂く。

だが、ゾンビたちは、それでも止まらない。斬られた身体から、黒い血を流しながら、俺たちに迫ってきた。

「くそっ、効いてないのか!?」

アルベルトが、焦りの声を上げた。

「いや……」

俺は、そう言って、もう一度、剣を振るった。

「『剣術融合』……胴斬り!」

俺の剣は、ゾンビの胴体を、まるで豆腐のように切り裂いた。

だが、それでも、ゾンビたちは、上半身と下半身が分かれても、なお俺たちに向かって、這いずり寄ってくる。

「ふん。なるほどな」

俺は、この世界のアンデッドの特性を、この一撃で理解した。

こいつらを完全に消滅させるには、頭部を破壊するしかない。

「アルベルト! 頭を狙え!」

俺は、そう叫びながら、剣を振り回した。

俺の剣は、光の軌跡を描き、次々とゾンビたちの頭部を破壊していく。

「……っはぁ、はぁ」

ゾンビの群れを倒し終えると、俺は荒い息を吐いた。

このダンジョンは、一筋縄ではいかない。

だが、この困難こそ、俺の剣を、さらに高めてくれるだろう。

俺は、洞窟のさらに奥へと、足を進めた。