芹沢鴨の異世界日記 第十一話


『嘆きの洞窟』のさらに奥へと進むにつれ、腐敗した匂いは一層濃くなり、洞窟内を漂う魔力の澱が肌を刺すように感じられた。ゾンビの群れを倒した後も、スケルトンやゴーストといったアンデッド系の魔物が、俺たちの行く手を阻んだ。

スケルトンは骨だけの身体で、剣による斬撃が効きにくい。だが、俺は『剣術融合』のスキルを駆使して、関節や頭蓋骨といった弱点を正確に狙い撃ち、一体ずつ確実に仕留めていった。

ゴーストは実体を持たないため、物理的な攻撃はほとんど通用しない。だが、俺の剣に宿る『剣気』の力が、その霊体に干渉し、消滅させることができることに気づいた。

「すごいな、芹沢。お前の剣は、どんな魔物にも通用するのか?」

アルベルトが、驚きと感嘆の混じった声で言った。

「ふん。当たり前だ。俺の剣は、この程度の化け物に負けるほど柔じゃない」

俺は、そう言って、洞窟のさらに奥へと進んだ。

やがて、俺たちは洞窟の最深部に辿り着いた。

そこは、巨大な空間になっており、中央には、薄暗い光を放つ祭壇が鎮座していた。そして、祭壇の周囲には、無数の骸骨が散らばっている。

「……ここが、最深部か」

アルベルトが、緊張した声で呟いた。

「おい、芹沢。あれを見ろ!」

アルベルトが指差す先を見ると、祭壇の真上に、鮮やかな緑色に輝く薬草が生えていた。

「あれが、『薬草の王』か……」

俺は、その薬草の神聖な光に、思わず目を奪われた。

だが、その時。

祭壇の奥から、重々しい足音が聞こえてきた。

「……来たな」

俺は、腰の剣に手をかけた。

暗闇の中から現れたのは、巨大な剣と盾を持った、漆黒の甲冑を纏った騎士だった。その甲冑の隙間からは、禍々しい紫色の光が漏れ出している。

「あれが、『嘆きの騎士』だ……!」

アルベルトが、震える声で言った。

嘆きの騎士は、ゆっくりと俺たちに向かって歩いてくる。その一歩一歩が、洞窟全体を揺らすほど重い。

俺は、剣を抜き、構えを取った。

「『剣気』!」

俺は、すぐに剣気スキルを発動させた。だが、俺の剣から放たれる光は、嘆きの騎士の禍々しい紫色の光に、かき消されてしまう。

「……くそっ」

俺は、舌打ちをした。

嘆きの騎士は、巨大な剣を振りかぶり、俺たちに向かって振り下ろしてきた。

「危ない!」

アルベルトが、俺を突き飛ばす。

俺は、地面を転がりながら、嘆きの騎士の剣が地面を叩きつける音を聞いた。

ゴォン!

洞窟全体が揺れ、地面に深い亀裂が入った。

「……馬鹿な。あんな一撃、受けたらひとたまりもない……」

アルベルトが、絶望的な表情で呟いた。

だが、俺は、諦めなかった。

「ふん。確かに、力では劣る。だが……」

俺は、立ち上がり、剣を構え直した。

「……剣術で、勝てぬ相手などいない!」

俺は、そう言って、嘆きの騎士に向かって、駆け出した。