芹沢鴨の異世界日記 第十三話


嘆きの騎士の首筋に深い傷をつけた俺は、荒い息を吐きながらも、不敵な笑みを浮かべていた。

「どうだ、アルベルト。俺の剣は、この程度の化け物には負けぬ」

俺がそう言うと、アルベルトは安堵の表情で頷いた。

「ああ、お前の剣は、本当にすごい。俺の魔法も、少しは役に立ったみたいだな」

「ふん。まあ、悪くはない」

俺は、そう言ってアルベルトに背を向けた。

嘆きの騎士は、首筋から禍々しい紫色の光を放ちながら、再び剣を構え直した。その動きは、先ほどよりもさらに鈍重になっている。

「……なるほど。ダメージは、蓄積しているようだな」

俺は、そう確信した。

ならば、このまま攻め続ければ、必ず勝てる。

俺は、再び嘆きの騎士に向かって駆け出した。

だが、その時、俺の頭の中に、声が響いた。

《警告。MPが不足しています。》

「……何?」

俺は、一瞬、動きを止めた。

《スキル『剣気』を使用できません。》 《スキル『剣術融合』を使用できません。》

俺の身体から、力が抜けていくような感覚に襲われた。

「くそっ、こんな時に……!」

俺は、舌打ちをした。

俺のスキルは、この世界の魔力、『MP』という力を使って発動するものだった。しかし、俺はこれまで、そのことを意識していなかった。

嘆きの騎士との激しい戦闘で、俺のMPは、底をついてしまったのだ。

「芹沢、どうした!?」

アルベルトが、俺の異変に気づき、叫んだ。

その隙を、嘆きの騎士は見逃さなかった。

嘆きの騎士は、巨大な剣を、まるで俺を押しつぶすかのように振り下ろしてきた。

スキルが使えない。

俺は、ただの剣術で、この一撃を受け止めなければならない。

俺は、歯を食いしばり、両手で剣を構え、その一撃を受け止めた。

ゴォン!

金属がぶつかり合う、鈍い音が響き渡る。

俺の身体は、その衝撃で、地面に叩きつけられた。

「ぐっ……!」

口から、血の塊が込み上げてくる。

腕が、痺れて動かない。

「芹沢!」

アルベルトが、悲鳴のような声で俺の名を呼んだ。

俺は、痛みで、視界が歪んでいくのを感じた。

「……くそっ。この程度で、俺が……!」

俺は、必死に立ち上がろうとする。だが、身体が言うことを聞かない。

嘆きの騎士は、動けない俺に向かって、再び剣を振りかぶった。

「終われ」

どこからともなく、冷たい声が聞こえてきた。

「……くそっ……! まだ……まだだ……!」

俺は、最後の力を振り絞り、剣を構えようとする。

だが、その剣は、俺の手に収まることはなかった。

「芹沢!」

アルベルトが、俺の前に飛び出し、その身を盾にした。

「馬鹿な真似は、やめろ……!」

俺は、叫んだ。

だが、アルベルトは、振り返ることはなかった。

そして、嘆きの騎士の剣が、アルベルトの身体に振り下ろされる。

ギィィィン!

甲高い金属音が響き渡り、アルベルトの身体が、地面に叩きつけられた。

「アルベルト……!」

俺は、痛みを忘れて叫んだ。

だが、アルベルトは、返事をしなかった。

その代わりに、俺の頭の中に、声が響いた。

《警告。生命の危機。緊急的にスキル『スキル作成』を発動します。》

《スキル作成:『怒り』を作成しますか?》

「……作成しろ」

俺は、そう念じた。