芹沢鴨の異世界日記 第十四話
血の匂いが、俺の鼻腔をくすぐった。地面に倒れ伏したアルベルトの身体から、鮮血が流れ出している。その光景は、俺の頭の中の、ある記憶を呼び起こした。
新撰組の屯所。血まみれの部屋。俺を裏切り、斬りかかってきた土方や沖田の顔。そして、血を流して倒れている首のない平山、俺の身体から流れ出る、温かい血の感触。
あの時と、同じだ。
俺は、また、仲間を失うのか……?
その瞬間、俺の中で、何かが弾けた。
それは、憎悪でも、絶望でもなかった。
それは、怒り。
俺たちを裏切った奴らへの、激しい怒り。
そして、この目の前の、アルベルトを傷つけた化け物への、殺意にも似た怒り。
俺の心臓が、激しく脈打つ。
《スキル作成:『怒り』、完了。》
スキル: 怒り(レベル1) 効果: 怒りを力に変換し、一時的に身体能力を飛躍的に向上させる。使用中は、身体の負荷が激しい。
俺の身体から、黒いオーラが噴き出した。それは、まるで、俺の心の中の闇が、具現化したかのような、禍々しい光だった。
「グルルルル……」
俺は、獣のような唸り声を上げながら、立ち上がった。
腕の痛みも、身体の傷も、もはや気にならない。
俺の視界は、怒りによって、真っ赤に染まっていた。
「てめぇ……!」
俺は、嘆きの騎士に向かって、叫んだ。
嘆きの騎士は、その禍々しいオーラに、一瞬だけ怯んだようだった。だが、すぐに俺を、巨大な剣で叩きつけようとしてきた。
だが、その攻撃は、もはや俺の目には、止まって見える。
俺は、嘆きの騎士の剣の軌道を、完璧に読み切った。
「『怒り』……居合……抜刀斬り!」
俺は、剣を鞘に納め、そして、一瞬で抜き放った。
光の斬撃が、嘆きの騎士の漆黒の甲冑を、まるで紙切れのように切り裂いた。
甲冑が、バラバラになり、地面に散らばる。
だが、嘆きの騎士は、まだ倒れない。
甲冑の中には、骸骨のような身体があり、その心臓の部分には、禍々しい紫色の魔石が埋め込まれている。
「そこだ……!」
俺は、再び剣を構え、その魔石に向かって、一気に間合いを詰めた。
「『怒り』……一の太刀!」
俺の剣は、光を放ち、嘆きの騎士の心臓に埋め込まれた魔石を、正確に、そして完璧に、破壊した。
パリン!
ガラスが割れるような音が響き渡り、嘆きの騎士の身体は、まるで砂のように崩れ落ち、消滅していった。
静寂が、洞窟を支配する。
俺は、荒い息を吐きながら、その場に立ち尽くしていた。
身体の奥底から、激しい痛みが湧き上がってくる。
『怒り』のスキルの反動だ。身体のあらゆる箇所から、悲鳴が聞こえてくるようだった。
俺は、その痛みに耐えながら、アルベルトに駆け寄った。
「アルベルト! おい、アルベルト!」
俺は、アルベルトの身体を抱き起こした。
アルベルトは、意識を失っている。
だが……。
「よかった……まだ、息がある……!」
俺は、安堵の息を吐いた。
アルベルトの身体は、瀕死の状態だ。だが、まだ、助かる。
俺は、アルベルトを抱きかかえ、祭壇へと向かった。
祭壇の上には、『薬草の王』が、鮮やかな緑色の光を放っている。
俺は、迷うことなく、その薬草を摘み取った。
「これで……お前を、助ける」
俺は、そう呟き、アルベルトの口に、その薬草を押し込んだ。
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