芹沢鴨の異世界日記 第十五話


アルベルトの口に『薬草の王』を押し込むと、その薬草はたちまち光の粒子となって彼の身体に吸収されていった。全身の傷が、まるで魔法のように癒えていく。血まみれだった鎧の隙間から、みるみるうちに健康な肌が覗いた。

「……よかった」

俺は、安堵のため息を漏らした。アルベルトの身体が、完全に元に戻っていくのを確認し、俺は力なくその場に座り込んだ。

『怒り』スキルの反動が、今になって俺の身体を襲う。全身の筋肉が悲鳴を上げ、激しい疲労と痛みが俺の意識を朦朧とさせた。

「……くそっ、この程度で、倒れるわけには……」

俺は、必死に意識を保とうとする。だが、身体は鉛のように重く、瞼が自然と閉じていく。

その時、アルベルトが、ゆっくりと目を開けた。

「……せ、芹沢……?」

「……アルベルト……」

俺は、か細い声で、そう答えた。

アルベルトは、俺の姿を見て、驚愕の表情を浮かべた。

「お、おい! 芹沢! お前、どうしたんだその傷は!」

アルベルトは、俺の身体に刻まれた傷を見て、叫んだ。

俺は、嘆きの騎士との戦いで、かなりのダメージを受けていた。スキルが使えなくなった後の、嘆きの騎士の一撃は、俺の身体を、骨が砕けるほどに打ちのめしていた。

『薬草の王』は、アルベルトの傷は癒したが、俺の傷はそのままだった。

「……心配するな。俺は、大丈夫だ」

俺は、そう言って、無理やり笑顔を作った。

「馬鹿を言うな! 大丈夫なわけがないだろう!」

アルベルトは、立ち上がり、俺に駆け寄ってきた。

そして、俺の身体を抱き起こそうとする。

その時、アルベルトの身体から、淡い光が放たれた。

「え……?」

アルベルトが、不思議そうな顔で自分の身体を見た。

その光は、俺の身体を包み込み、俺の傷を、ゆっくりと癒していく。

「な……なんだ、これは……」

俺は、驚きを隠せない。

アルベルトの身体から放たれる光は、まるで、暖かい温泉に浸かっているかのような、心地よい感覚だった。

「わ、わかんねえ! 俺にも、何が起こっているのか……」

アルベルトもまた、困惑しているようだった。

その時、俺の頭の中に、声が響いた。

《スキル『薬草の王』の特性が、アルベルトに付与されました。》 《アルベルトのスキル『ヒーリング』が、レベルアップしました。》

「……なるほどな」

俺は、納得した。

アルベルトが『薬草の王』を摂取したことで、彼の治癒能力が、飛躍的に向上したのだ。

そして、その力が、今、俺の傷を癒している。

やがて、俺の傷は、完全に癒えた。

俺は、再び立ち上がり、剣を握りしめた。

「感謝する、アルベルト」

俺は、そう言って、アルベルトに頭を下げた。

アルベルトは、驚いた顔で俺を見つめていた。

「お、おい、芹沢……。お前が、頭を下げるなんて……」

「馬鹿を言うな。仲間を助けてくれたんだ。当然だろうが」

俺は、そう言って、アルベルトの肩を叩いた。

「……仲間……」

アルベルトは、そう呟くと、嬉しそうな笑顔を見せた。

俺たちは、嘆きの洞窟を後にした。

洞窟の外に出ると、空は既に夕焼けに染まっていた。

「さあ、帰るぞ、アルベルト。そして、次の依頼だ」

俺は、そう言って、アルベルトと共に、王都グランベルへと向かった。

俺は、この世界で、新たな仲間を得た。

そして、その仲間と共に、俺の剣を、どこまで高めることができるのか。

その答えを、俺は、これから見つけ出してやる。