芹沢鴨の異世界日記 第十八話
翌朝、俺たちは王都の一角にそびえ立つ『賢者の塔』へと向かった。その塔は、遠くからでも一目でわかるほどに巨大で、まるで天を突くかのような威容を誇っていた。壁面には奇妙な模様が刻まれており、塔全体から、微かに魔力の波動を感じる。
「おい、アルベルト。本当にここなのか? 妙な気配がするが」
俺は、警戒しながら塔の入り口を見上げた。
「ああ、間違いない。ここが賢者の塔だ。魔力の気配がするってのは、この塔が魔法によって守られている証拠だ」
アルベルトは、慣れた様子でそう答えた。
塔の中に入ると、そこは外部の雰囲気とは打って変わって、静寂に包まれていた。薄暗いホールには、巨大な本棚が壁一面に並んでおり、様々な言語で書かれた古ぼけた書物が所狭しと並んでいる。
「すげえ……」
アルベルトが、感嘆の声を漏らした。
だが、俺は、この静寂の中に、どこか不気味なものを感じていた。
「おい、アルベルト。人気がない。本当に、ここでスキルポーションとやらが作れるのか?」
俺がそう言うと、アルベルトは苦笑いを浮かべた。
「はは。賢者の塔の賢者たちは、大抵、研究に没頭しているからな。だが、奥に行けば、誰かいるはずだ」
俺たちは、ホールの奥へと進んだ。
やがて、俺たちは一つの扉の前に辿り着いた。扉には、奇妙な文様が描かれている。
アルベルトが、扉に手をかざすと、扉はまるで生きているかのように、ゆっくりと開いた。
扉の奥には、薄暗い研究室が広がっていた。部屋の中央には、巨大なフラスコが置かれており、その中では、見たこともない液体が、妖しい光を放っている。そして、部屋の片隅には、一人の老人が、書物を読みふけっていた。
老人は、ボロボロのローブを纏っており、白髪と長い髭が、彼の顔のほとんどを覆い隠している。
「……用件はなんだね?」
老人は、俺たちに目を向けることなく、そう尋ねた。
「あ、あの! 俺たちは冒険者です! スキルポーションを作ってもらいたくて来ました!」
アルベルトが、緊張した声で答えた。
老人は、その言葉に、ようやく書物から目を離し、俺たちを見た。
その目は、まるでこの世の全てを見通すかのような、鋭い光を宿していた。
「スキルポーション、か。……まあ、作れなくはないが、材料は持ってきたのかね?」
「い、いえ……まだです」
アルベルトは、老人の迫力に気圧され、たじろいだ。
「ならば、帰れ。材料も持たずに来るなど、時間の無駄だ」
老人は、再び書物に目を向けようとした。
だが、その時、俺は一歩前に出た。
「待て」
俺の声に、老人は、わずかに眉をひそめた。
「俺は、スキルを強化したい。そのためなら、どんな材料でも、手に入れてきてやる。必要な材料を教えてくれ」
老人は、俺の言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
そして、俺の目を、じっと見つめた。
「……ほう。面白い。お前は、この塔に来る冒険者とは、少し違うようだ」
老人は、そう言って、俺の身体を、まるで品定めするかのように眺めた。
「よかろう。必要な材料を教えてやろう。だが……」
老人は、そこで言葉を切った。
「その材料は、お前たち二人の力だけでは、到底手に入れることはできない。それほどに、危険なものだ」
「構わん。どんな材料でも、手に入れてきてやる」
俺は、老人の言葉に、迷うことなくそう答えた。
老人は、不敵な笑みを浮かべた。
「では、教えてやろう。お前が求めるスキルの材料は……『グリフォンの羽』だ」
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