芹沢鴨の異世界日記 第十九話


「グリフォンの羽……だと?」

アルベルトが驚愕の声を上げた。その顔には、恐怖の色が浮かんでいる。

「グリフォンとは、鷹の頭と獅子の身体を持つ、空を飛ぶ魔物だ。その強さは、並の冒険者パーティーでは、手も足も出ないほどだぞ!」

老賢者は、そんなアルベルトの言葉を気にも留めず、淡々と続けた。

「グリフォンの羽には、その魔物自身の強大な魔力が宿っている。それがあれば、お前のスキルポーションは、より強力なものになるだろう」

俺は、グリフォンの姿を想像してみる。鷹の頭に獅子の身体。そして、空を飛ぶ。それは、日本の妖怪や神獣にも似た、威厳に満ちた魔物だろう。

だが、俺の心には、恐怖よりも、武者震いに似た高揚感が湧き上がっていた。

「……ふん。面白い。空を飛ぶ相手を斬るなど、剣士としての腕の見せ所だ」

俺は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。

「おいおい、芹沢! 笑ってる場合か! 俺はグリフォンと戦うなんて、冗談じゃないぞ!」

アルベルトは、悲鳴のような声で言った。

だが、俺は、もう決めていた。

「行くぞ、アルベルト。グリフォンの羽を、手に入れてくる」

「いや、待て! せめて、もっと、他の冒険者を集めてパーティーを組もう! 二人で行くなんて、無謀だ!」

アルベルトは、必死に俺を止めようとする。だが、俺は、その言葉を振り切って、賢者の塔を後にした。

「……くそっ! わかったよ! お前一人に行かせるわけにはいかないだろうが!」

アルベルトは、そう言って、俺の後を追いかけてきた。

俺たちは、冒険者ギルドへと向かった。

ギルドの掲示板には、グリフォン討伐の依頼はなかった。グリフォンは、あまりにも強力すぎるため、討伐依頼が掲示されることは稀だという。

「なら、グリフォンの生息地を探すしかないな」

俺は、ギルドの受付で、グリフォンの生息地について尋ねた。

受付の女性は、俺の言葉に、顔を青ざめさせた。

「グリフォンの生息地、ですか……? それは、王都の北にある『絶壁山脈』です。ですが……そこには、グリフォンだけでなく、様々な強力な魔物が住んでいます。とても、二人で行くような場所ではありません」

受付の女性は、必死に俺を止めようとする。だが、俺は、もう決意を固めていた。

「分かった。ありがとう」

俺は、そう言って、ギルドを後にした。

絶壁山脈。

王都の北に位置する、巨大な山脈だという。

「……いよいよ、本物の戦いになりそうだな」

俺は、そう呟くと、腰に下げた剣を握りしめた。

アルベルトは、そんな俺の背中を、複雑な表情で見つめていた。

「なあ、芹沢……。お前は、本当に、死ぬのが怖くないのか?」

その言葉に、俺は振り返った。

「怖いさ。だが、それ以上に、俺は、この剣を、この世界でどこまで高められるのか、試してみたい」

俺は、そう言って、再び歩き始めた。

絶壁山脈へ向かう道は、俺たちの新たな旅の始まりだった。