芹沢鴨の異世界日記 第二十六話


『神速』のスキルが心臓に刻まれた瞬間、俺の身体の中を駆け巡っていた熱い波動が、一気に収束していった。そして、俺は、自分の身体が、これまでとは全く違う、新たな感覚に包まれているのを感じた。

「……これが、『神速』か」

俺は、そう呟き、目の前に立つ老賢者を見つめた。

老賢者は、俺の様子を見て、満足そうな笑みを浮かべている。

「どうだね、若者。そのスキルは、お前の剣術を、更なる高みへと導いてくれるだろう」

「ふん。まあ、悪くない」

俺は、そう言って、老賢者に背を向けた。

「感謝する。この借りは、いつか必ず返す」

俺の言葉に、老賢者は、ただ静かに頷いた。

「面白い。楽しみにしているとしよう」

俺とアルベルトは、賢者の塔を後にした。

塔の外に出ると、俺は、すぐに『神速』のスキルを試してみたくなった。

「おい、アルベルト。どこか、誰もいない場所に案内してくれ」

俺の言葉に、アルベルトは、不思議そうな顔で俺を見た。

「誰もいない場所って……。街の外に行くのか?」

「ああ。俺の新しいスキルを、試してみたい」

俺たちは、王都の城壁の外にある、広大な草原へと向かった。

草原は、どこまでも続く緑の絨毯で、人影は一つもない。

俺は、その草原の真ん中に立ち、剣を抜いた。

「アルベルト。少し、下がっていてくれ」

俺がそう言うと、アルベルトは、言われた通りに、俺から距離を取った。

俺は、目を閉じ、集中した。

『スキル作成』で得た、新たなスキル『神速』。それは、俺の剣術を、どれだけ速くしてくれるのだろうか。

俺は、自分の心臓に刻まれた『神速』のスキルに、意識を集中させた。

そして、俺は、地面を蹴った。

「『神速』……!」

次の瞬間、俺の身体は、まるで、時間が止まったかのように、一瞬で、草原の端まで移動していた。

「……なっ……!」

アルベルトが、絶句する。

俺の身体は、残像を残すほどに速くなっていた。

そして、俺は、再び、剣を構えた。

「『神速』……居合……抜刀斬り!」

俺は、剣を鞘に納め、そして、一瞬で抜き放った。

その一撃は、まるで、光そのものだった。

斬撃は、音もなく、草原の地面を、まるで紙のように切り裂いていく。

「……すげえ……!」

アルベルトが、興奮した声で叫んだ。

俺は、剣を鞘に納め、荒い息を吐いた。

「ふん。まだまだだ。まだ、俺の剣は、速くなる」

『神速』のスキルは、俺の想像を遥かに超えるものだった。だが、同時に、このスキルを使うには、身体に激しい負荷がかかることも分かった。

「おい、芹沢。もう、十分だろ。街に戻ろうぜ」

アルベルトが、俺の元に駆け寄ってきた。

「ああ、そうだな。戻ろう」

俺は、そう言って、アルベルトと共に、王都へと戻った。

俺の剣は、新たな高みへと達した。

だが、この力は、まだ、俺の求める力ではない。

俺の求める力は、もっと、何か、違うものだ。

俺は、この剣を、この世界で、どこまで高めることができるのか。

その答えを、俺は、これから見つけ出してやる。