芹沢鴨の異世界日記 第三十二話


古城の依頼を終え、俺とアルベルトは王都へと帰ってきた。ギルドで報酬を受け取り、古城で手に入れた魔物たちの素材を換金すると、俺たちの手元には、またしても莫大な金が残った。

「すげえ……! また大金持ちだぜ、芹沢!」

アルベルトは、硬貨の詰まった袋をジャラジャラと鳴らしながら、嬉しそうな顔で俺に言った。

俺は、そんなアルベルトを横目で見ながら、酒場へと向かった。古城での戦い、そして新たなスキルの獲得。今日ばかりは、美味い酒を飲んで、ゆっくりと休むことにしたかった。

酒場の扉を開けると、そこは、冒険者たちの熱気と喧騒に満ちていた。俺たちは、隅の席に座り、ビールを注文した。

「それにしても、今回の戦いは、本当にすごかったな! お前が光る剣で、あの光の化け物を一撃で倒した時は、俺、本当に鳥肌が立ったぜ!」

アルベルトは、ビールを飲みながら、興奮した様子で俺に言った。

「ふん。お前がいなければ、あの光の化け物は倒せなかった。俺は、お前のヒーリングの光で、奴を斬ることができたんだ」

俺の言葉に、アルベルトは照れくさそうに笑った。

「はは。そう言ってくれると、嬉しいぜ!」

俺たちは、酒を飲みながら、今回の依頼での出来事を、語り合った。そして、俺は、あることを思い出し、アルベルトに尋ねた。

「なあ、アルベルト。お前は、これから、どうしたい?」

「これから、か? そうだな……。俺は、もっと強くなって、お前と一緒に、たくさんの冒険をしたいぜ!」

アルベルトは、そう言って、目を輝かせた。

「……そうか」

俺は、アルベルトの言葉に、少しだけ、胸が温かくなるのを感じた。

だが、俺には、もう一つ、確認したいことがあった。

「アルベルト。お前の故郷に、帰りたいとは思わないのか?」

俺の問いに、アルベルトは、一瞬、言葉を詰まらせた。

「……俺は、故郷には、もう帰れないんだ」

「どういうことだ?」

アルベルトは、寂しそうな顔で、ゆっくりと話し始めた。

「俺の故郷は、小さな村だった。だが、三年前に、魔物の大群に襲われて、村は、壊滅してしまったんだ。俺は、運良く生き残ったが、家族や仲間は、みんな……」

アルベルトは、そこで言葉を切った。

俺は、何も言わなかった。ただ、アルベルトの言葉を、静かに聞いていた。

「俺は、その魔物の大群を、この手で倒したい。だが、俺一人では、どうにもならない。だから、俺は、冒険者になったんだ」

「……その魔物の大群は、まだ、この世界のどこかにいるのか?」

俺がそう尋ねると、アルベルトは頷いた。

「ああ。魔物の大群を率いる、魔王。俺は、いつか、そいつを倒したい。だが、魔王は、この世界の、どんな魔物よりも、強いらしい。だから、俺は、お前と一緒に……」

アルベルトは、俺の顔を、まっすぐに見つめた。

「俺は、お前と一緒に、魔王を倒したいんだ」

その言葉に、俺は、再び、言葉を失った。

魔王。

それは、この世界で、最も恐れられている存在。

だが、俺は、アルベルトの言葉に、迷いはなかった。

「……ふん。馬鹿な奴だ」

俺は、そう言って、アルベルトに笑いかけた。

「魔王か……。面白い。お前の願い、叶えてやろう」

俺は、そう言って、アルベルトの肩を叩いた。

「おう!」

アルベルトは、満面の笑みでそう答えた。

俺の剣は、もはや、俺自身の探求のためだけではない。

それは、俺の仲間、アルベルトの願いを叶えるための剣だ。

俺は、この剣を、この仲間と共に、魔王を倒せるほどの力へと、進化させてやる。