芹沢鴨の異世界日記 第三十四話


王都を後にした俺たちは、『古の森の迷宮』を目指して旅を続けた。王都の喧騒から離れるにつれて、道は次第に森の奥へと続いていく。周囲は、巨大な木々に覆われ、太陽の光すら届かないほどに鬱蒼としていた。

「……古の森の迷宮、か。なんだか、嫌な気配がするな」

アルベルトが、警戒しながらそう言った。

「ふん。当たり前だろう。三大ダンジョンの一つだ。生半可な気持ちで挑める場所じゃない」

俺は、そう言って、腰の剣に手をやった。

俺たちの旅は、順調に進んでいた。道中、いくつかの魔物と遭遇したが、俺の『神速』のスキルと、アルベルトの魔法があれば、敵ではない。

だが、古の森に近づくにつれて、俺は、ある異変に気づいた。

「……なぁ、アルベルト。妙だと思わないか?」

「何がだよ、芹沢?」

「この森には、魔物の気配が、ほとんどない」

俺の言葉に、アルベルトは、一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに、真剣な表情になった。

「確かに……。こんなに鬱蒼とした森なのに、動物の鳴き声も、魔物の気配も、ほとんどないな」

その時、俺たちの目の前に、巨大な木の根が現れた。その根は、まるで生きているかのように、俺たちの行く手を阻んでいた。

「くそっ、邪魔だな」

俺は、そう言って、剣を抜き、木の根を斬りつけた。

ギィン!

甲高い金属音が響き渡る。俺の剣は、木の根に、傷一つ付けることができなかった。

「なっ……!?」

俺は、驚愕の声を上げた。

「これは……! 森の魔力だ!」

アルベルトが、叫んだ。

「この木の根には、森の魔力が、凝縮されている。並の攻撃では、傷一つ付けることなんてできない!」

アルベルトの言葉に、俺は納得した。

この森全体が、一つの巨大な魔物のようなものだ。

その時、俺たちの背後から、木の枝が、まるで鞭のように、俺たちに向かって襲いかかってきた。

「危ない!」

アルベルトが、叫んだ。

俺は、その一撃を、身体を捻ってかわしたが、アルベルトは、枝の一撃を受けて、地面に叩きつけられた。

「アルベルト!」

俺は、叫んだ。

アルベルトは、肩を押さえながら、苦痛の表情を浮かべていた。

「くそっ……! この森は、俺たちのことを、侵入者だと認識している……!」

俺は、そう言って、再び、剣を構えた。

だが、この森は、俺たちの剣術や魔法が通用する相手ではない。

この森を攻略するためには、この森の魔力に、対抗する力が必要だ。

俺は、自分の心臓に刻まれた『スキル作成』のスキルに、意識を集中させた。

《スキル作成:『自然融合』を作成しますか?》

「……作成しろ」

《警告。新たなスキルの作成には、材料が必要です。》

「……材料……?」

俺は、舌打ちをした。

その時、俺の足元に、小さな花が咲いていることに気づいた。その花は、まるで、俺に語りかけているかのように、淡い光を放っていた。

「……これか」

俺は、その花を摘み取った。

《スキル作成:『自然融合』、完了。》


スキル: 自然融合(レベル1) 効果: 自然の魔力と一体化し、自然の攻撃を無効化する。

俺は、新たなスキルを、心臓に刻み込んだ。

そして、俺は、アルベルトに、その花を差し出した。

「アルベルト。これを、飲め」

「え? 芹沢……これは……」

「いいから、飲め。これが、俺たちの、新たな力だ」

俺は、そう言って、アルベルトに笑いかけた。