芹沢鴨の異世界日記 第三十五話


俺から差し出された花を、アルベルトは戸惑いながらも口にした。花は、たちまち光の粒子となり、アルベルトの身体に吸収されていく。すると、アルベルトの顔から、苦痛の表情が消え、肩の傷も、みるみるうちに癒えていった。

「……すげえ! 痛みが、全くなくなった……!」

アルベルトは、感嘆の声を上げた。

「ふん。当然だろう。俺の剣は、お前を守るためのものだ」

俺は、そう言って、アルベルトに笑いかけた。

《スキル『自然融合』のスキルレベルが上昇しました。》 《アルベルトのスキル『ヒーリング』のスキルレベルが上昇しました。》

俺とアルベルト、二人のスキルが、再び、同時にレベルアップした。

「よし、行くぞ、アルベルト。今度こそ、この森を、切り抜ける」

俺は、そう言って、再び、巨大な木の根に向かって歩き出した。

だが、今度は、何の抵抗もない。

俺たちが、木の根に触れても、木の枝が俺たちに襲いかかってくることはなかった。

「すげえ……! 本当に、森の魔力が、俺たちを攻撃してこない……!」

アルベルトは、驚愕の声を上げた。

「ふん。当たり前だろう。俺たちは、この森と、一つになったんだ」

俺は、そう言って、さらに奥へと進んだ。

『自然融合』のスキルは、俺とアルベルトの身体を、この森の魔力と一体化させる。これにより、俺たちは、森にとって、侵入者ではなく、森の一部として認識されるようになったのだ。

俺たちは、森の奥へと、迷うことなく進んでいった。

道中、様々な魔物と遭遇したが、森の魔物たちは、俺たちに攻撃を仕掛けてくることはなかった。それどころか、まるで、俺たちを恐れているかのように、道を譲る。

俺たちは、順調に、古の森の迷宮の最深部へと、近づいていった。

そして、俺たちは、ついに、巨大な木の根が絡み合った、巨大な門のようなものの前に辿り着いた。

「……あれが、古の森の迷宮の入り口か」

アルベルトが、息をのんだ。

その門は、まるで、生きているかのように、脈打っていた。そして、その奥からは、とてつもない魔力の波動を感じる。

「……行くぞ、アルベルト。伝説の剣が、俺たちを待っている」

俺は、そう言って、門へと向かって、歩き出した。

だが、その時。

門から、巨大な木の根が、俺たちに向かって、襲いかかってきた。

「なっ……!?」

俺は、驚愕の声を上げた。

俺たちの『自然融合』スキルは、この森の魔力に、対抗できるはずだ。なぜ、攻撃してくるんだ……?

その時、俺たちの頭の中に、声が響いた。

《警告。迷宮の主は、迷宮と一体化しています。》 《迷宮の主は、あなた方を侵入者と認識しています。》

「……なるほどな。森全体と、一体化した魔物か……!」

俺は、この迷宮の本質を、この一瞬で理解した。

この迷宮は、ただのダンジョンではない。それは、この森全体を支配する、一つの巨大な生命体だ。

俺は、剣を構え、襲いかかる木の根を、斬り裂いた。

だが、木の根は、まるで無限に湧き出てくるかのように、次々と俺たちに襲いかかってくる。

「くそっ、キリがない……!」

俺は、舌打ちをした。

このままでは、迷宮の入り口にすら、辿り着けない。

俺は、自分の心臓に刻まれた『スキル作成』のスキルに、意識を集中させた。

「……俺は、この森を、切り開いてやる」

俺は、そう念じた。