芹沢鴨の異世界日記 第四十二話


砂漠の王の巨大な身体が、アルベルトに向かって迫る。俺は、その光景をただ見ていることしかできなかった。全身に力が漲らない。疲労困憊の身体が、俺の足を地面に縫い付けていた。

「くそっ、動け……動けよ、俺の身体!」

俺が悔しさに歯を食いしばった、その時だった。

アルベルトが、叫んだ。

「芹沢! 俺を信じろ!」

その言葉と共に、アルベルトの身体から、淡い光が放たれた。それは、アルベルトの『ヒーリング』の光だ。その光は、砂漠の王の身体とぶつかり合い、砂漠の王の身体を、一瞬だけ、硬直させた。

「……なるほど。光と砂、か」

俺は、この戦いの本質を、この一瞬で理解した。

砂漠の王は、砂でできた身体を持つ。そして、その砂は、アルベルトの光の魔法と、同じように、干渉することができる。

「アルベルト! そのまま、光を放ち続けろ!」

俺は、そう叫んだ。

アルベルトは、俺の言葉を信じて、光を放ち続けた。

俺は、その隙に、自分の心臓に刻まれた『スキル作成』のスキルに、意識を集中させた。

《スキル作成:『砂剣』を作成しますか?》

「……作成しろ!」

《警告。新たなスキルの作成には、材料が必要です。》

「……材料……?」

俺は、舌打ちをした。

その時、アルベルトの光とぶつかり合った砂漠の王の身体から、小さな砂の粒が、俺の手に、吸い込まれていくことに気づいた。

「……これか」

俺は、そう呟くと、その砂の粒を、まるで、俺の身体の一部であるかのように、取り込んだ。

《スキル作成:『砂剣』、完了。》


スキル: 砂剣(レベル1) 効果: 剣に砂の魔力を纏わせ、砂の魔物に有効な攻撃を可能にする。

俺の剣に、砂漠の王の砂の魔力が、まるで吸い込まれるかのように、纏わりついた。

俺の剣は、光を放ち、その刃は、これまでとは全く違う、不気味な輝きを放っている。

「……これが、俺たちの連携だ」

俺は、そう呟くと、砂漠の王に向かって、駆け出した。

砂漠の王は、アルベルトの光によって、まだ、硬直している。

俺は、その隙を、見逃さなかった。

「『砂剣』……一の太刀!」

俺は、剣を振り抜いた。

俺の剣から放たれた斬撃は、砂漠の王の身体を、まるで豆腐のように、切り裂いていく。

砂漠の王は、悲鳴を上げる間もなく、その巨大な身体を、砂へと変え、崩れ落ちていった。

静寂が、再び、灼熱の砂漠を支配する。

俺は、荒い息を吐きながら、剣を鞘に納めた。

「……やったのか……?」

アルベルトが、信じられない、といった表情で俺を見た。

「ああ。終わった」

俺は、そう言って、力なく微笑んだ。

その時、俺たちの頭の中に、声が響いた。

《スキル『砂剣』のスキルレベルが上昇しました。》 《アルベルトのスキル『ヒーリング』のスキルレベルが上昇しました。》

俺とアルベルト、二人のスキルが、再び、同時にレベルアップした。

俺は、アルベルトの元に駆け寄った。

「感謝する、アルベルト。お前のおかげで、勝てた」

俺は、そう言って、アルベルトの肩を叩いた。

アルベルトは、俺の言葉に、照れくさそうに笑った。

「はは! 俺は、ただ、お前の剣の、ほんの少しの助けになっただけさ!」

「馬鹿を言うな。お前がいなければ、俺は、あの砂漠の王を、斬ることはできなかった」

俺は、そう言って、アルベルトをまっすぐに見つめた。

俺たちは、砂漠の王を倒し、その魔石を手に入れた。

これで、神々の都アトランティスへ向かうための、道が、開かれた。

俺は、この剣と、この仲間と共に、魔王を倒す。