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不要な音

ある男がいた。彼は地位も名誉も手に入れていたが、ひとつだけ我慢ならないことがあった。それは「音」だ。 都会の喧騒、他人の無駄口、心にもないお世辞、そして悪意のある陰口。それらが彼の神経をすり減らしていた。

ある日、男のもとに一人のセールスマンが訪ねてきた。 「お客様にぴったりの商品がございます。これは最新の科学技術で作られた、特殊な補聴器のようなものです」

セールスマンは小さな銀色の粒を差し出した。 「これを耳に入れるだけで、あらゆる音を分析し、お客様にとって『不要な音』を完全に遮断します。雑音はもちろん、嘘や建前、意味のない会話まで、すべて自動でカットしてくれるのです。聞こえてくるのは、真実と、心安らぐ美しい音だけになります」

男は半信半疑だったが、高額な代金を支払い、その粒を耳の奥に装着した。

効果は劇的だった。 窓を開けても、道路を走る車の音や工事の騒音は一切聞こえなくなった。小鳥のさえずりや、風が木々を揺らす音だけが鼓膜を震わせる。 部下が書類を持ってきた。口は動いているが、声は聞こえない。男は頷いた。どうせあいつは、心の中では私を軽蔑しながら、口先だけで媚びを売っていたのだ。それが聞こえなくなったことは実に痛快だった。

「これは素晴らしい」 男は独りごちた。自分の声ははっきりと聞こえた。 彼はこの静寂と、選ばれた音だけの世界に陶酔した。自分こそが真理に到達した人間なのだという優越感に浸りながら、街へ出ることにした。

街は平穏だった。 行き交う人々は何かを喋っているようだったが、男の耳には届かない。彼らの会話はすべて、中身のない噂話か、愚痴か、あるいは嘘で塗り固められているに違いない。 男は優雅に歩いた。世界はこんなにも静かで、美しい場所だったのだ。

その夜、男は多くの著名人が集まるパーティに出席した。 会場は華やかで、着飾った男女がグラスを片手に談笑している。誰もが笑顔で、盛んに口を動かし、身振りを交えてコミュニケーションをとっていた。

男は会場の中央に進み出た。 かつてなら、耳障りな笑い声や、自慢話、腹の探り合いにうんざりしていただろう。だが、今の彼には「真実の耳」がある。

男はグラスを受け取り、周囲を見渡した。 そして、不意に背筋が寒くなった。

数百人が集まるその会場は、完全な無音だった。

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